手妻師たち(4)

「私、平井麻美と言います。町の博物館の職員です」麻美はそう言って名刺を渡した。「本当にありがとうございました。あの子たちにも手を焼いていたんですが、なんかすごくおとなしくなって助かりました」


「延寿がひとこと言えば言うこと聞くようになりますよ」


「おいおい、まるで俺が何か怖がらせることをしたみたいじゃないか。俺は別に何も言ってないぞ」


 麻美はくすくすと笑った。「転んだところをあなたみたいな人に助けていただいたんですから、恐縮してたんだと思います」


「あなたみたいな人、ってところが気になるが、まあいいか。ちょっと土手から落ちそうだったからな」


「まぁ! そうだったんですか。本当にありがとうございます。話は変わりますけど……」


「すみません、この祠にはさっきのお話の鎖が祀られているんですよね?」環が割り込んだ。


「あ、ええ、はい。伝説だと思ってたら本当に出てきたので、当時はちょっと大きな話題になってました。祠を移したときに、鎖はここに、骨はお寺の方に納められましたよ。でもどうしてこんな離れたところに祠を映したのか。あ、これは町の問題ですね。関係ない話でした、すみません」


「骨はお寺か。まあそっちはどうでもいいんだが、あ、ああ、……」


 ちょうどバスが橋のところを走っていた。子どもたち間に合ったな、と見送る延寿が一瞬固まった。


「そろそろ私たちも帰りますか」環も急によそよそしくなってきた。


「あの、それで、あの、私ちょっとお聞きしたいことがあって……」


「帰るよ、帰る。ほら、雷電、帰るよ。お嬢ちゃんも」麻美の言葉を無視するかのように、延寿がひ弱な男を引っ張った。


(この子雷電っていうのか、全然イメージ違う、私くらいの歳かな)麻美はそう思いながらも、話の途中で急に帰り出すなんて失礼ね、とため息をつきながら帰り始める環たちの方を見た。


 そのずっと先に新しくできた橋が見える。そのまた先から金色に光るなにかがこちらに歩いてくる。


「な、な、なんですか?あれ」麻美は背筋がゾクゾクしていた。


「え?」「え?」[え?]三人は顔を見合わせた。


「お嬢ちゃん、もしかして、見えちゃった?見えるの?」


「なんか……目が合っちゃったみたい」


「まずい、来ますよ!」

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