手妻師たち(5)

 環は麻美の手を引き走り出した。延寿は祠の扉を力づくで開けて、祀ってあった鎖を取り引きずり出した。

「うわ、くそ重い!」延寿は鎖を肩にかけた。

 麻美は視界の隅でそれをみつけ、(どろぼう!)と思ったが今はそれどころではないと全身が感じていた。

「走れ!」環が厳しい口調で麻美に言った。さっきまでの優しさは微塵もない。戸惑う麻美の手をつかんで引っ張った。祠から通りまでの遊歩道をものすごい速さで走っている。麻美が躓きそうになるタイミングで環は手をぐっと引く。麻美はまるで宙を舞うように感じた。

 金色に光るなにかは、移動スピードを上げてこちらに向かってくる。

(表通りまで出ても、そこからどうやって逃げるの? バス来ないし。)麻美も混乱しているのだろう。バスに乗れたとして逃げ切れるような速さではない。

 近づくにつれて、金色に光る何かがだんだんはっきりわかるようになってきた。金色の大きな化け物の後に、小さな化け物たちが隊列を組むように並んでいる。

 環たちは何か困ったように相談している。(なに話してるの? え? 笑ってるし)おいおい麻美、そんなこと考えてる余裕ないだろ、というツッコミが聞こえてきそうだ。この余裕は麻美の感じている根拠のない安心感からか。怖さも恐ろしさも感じているが、すくんでしまうような恐怖感がない。環を信じ切っている。

 環は表通りに出る最後の階段を一気に飛んで降りる。麻美も一緒に宙を舞う。一気に表通りまで出たが、化け物たちとの距離は100mあるかどうか。

 延寿が環に向かって指輪を投げた。「バイラ!」環が指輪を光らせた。急に橋の上に霧が立ちこめた。

「こっちだ、走れ!」

 そこに一台の車がすごいスピードでやってきた。タイヤを鳴らしてターンして環たちの前にぴたりと止まった。

「早く乗って」運転していた女が窓ごしに声をかける。

「やあ、陽子、いつもグッドタイミング」

「さあ、逃げるよ。乗って」延寿が麻美を押し込むように乗せた。

 4人が乗り込むと車はフル加速した。

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