橋、作りてぇ(4)
何年過ぎただろう、立派な橋の材料代くらいにはお金が貯まった。そんなある日、街道が騒ぎになっていた。考えられないほどの大きな石を一人の大男が鎖で体に縛り付けて運んでいると。あの大男だった。
村の入り口まで来ると「こいつを川の真ん中に据える。そして橋掛けるぞ」そう言って懐から袋を取り出して長老に渡した。中には結構な大金が入っていた。
どうやって稼いだのかは知らない。そして、大石を背負ってくるなんて、人間離れしている。しかしそんなことを追求するよりも、橋を作る話の方がどんどん進んでいった。
ちょうど川の流れが少なくなる時期だった。流れを真ん中からそらし、そこに基礎となる石を据える穴を掘った。大男がそこに石を担いできた。すると突然、
「俺がみんなを守る。俺がこの町を守る。今までさんざん迷惑かけてきた償いだ。ずっとずっとみんなを守る!」
そういって石を担いだまま穴の中に飛び込んだ。大男は進んで人柱となったのであった。
みんな手を合わせ、「大男の意思を無駄にしちゃいけない」と突貫で、それはそれは立派な丈夫な橋を架けた。
それからどんな大雨大水でも流されず、町に病気がはやることもなく、盗人も暴力もなく「ここはいつ来てもいいところだ」と評判になり、ここ、猫額山温泉郷はずっとずっと栄え、現在に至った。
「…こんなお話が町に伝わっています。物乞いが橋を作るお金をためて亡くなった話は東京の方にもあります。どちらかがどちらかに伝わったお話なのか色々調べてみました。たぶん、温泉客の口で東京の方から伝わったようです。でもね、明治の大改修で橋を作り直したときに、掘り起こした基礎の大石の下から鎖と大きな人骨が出てきました。橋を作った時のお話は本当のことだったようです。そしてそれらを橋のすぐ横にお祀りしてありましたが、今回の道路拡張により、この少し離れた、橋の見える山肌に祠と石を移したのです」
最初は遊んでいる子どももいたが、もうみんな館長の話にじっと聞き入っていた。最初に釘を刺されていた子たちを除いて。
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