橋、作りてぇ(3)
物乞いは死んでいた。
病気だったのだろうか。原因はわからない。とても穏やかな顔で、死後数日たっているはずなのにどこも傷んでいなかった。
町中のみんながやってきた。彼の死を悔やまない者はいなかった。一人を除いては。
「けっ、ちょっと見かけねぇと思ったら、こんな小汚ぇところで死んでやがんの」
みんなの視線が大男に集中した。無言の責めである。大男がそれに気づき、口を開こうとしたときに町の長老が、「みんなで葬式出してやろうや」と言った。みんな「そうだそうだ」と頷きあった。男の持ち物などを調べていた長老のお連れが、「長老! こんなものが!」と重そうな箱を取り出した。いつどこで手に入れたのか、千両箱だった。
箱を開けてみると小銭が詰まっていた。もちろん千両にはとても届かない。その銭を見て大男は突然泣き始めた。いや、実際はずっと泣くのを我慢していたようだった。
「これは、こいつが貯めた銭だ! 橋作るためにためた銭だ!」
実は大男と物乞いは仲が悪いわけではなかった。いくら好かれていたとは言え物乞いも世間からのつま弾き者。似た者同士、何か心に通じるものがあったのだろう。二人が何か話し込んでいるとことをしばしば目撃されていた。
「こいつはなあ、いつもいつも話してたんだ。みんなが困らねぇように、もっと頑丈な橋を作りてぇ、ってな」
涙をふきふき大男がみんなに話した。みんなはざわついた。突然男は立ち上がり「橋作るぞ!」と飛び出していった。そのまま行方が分からなくなってしまった。
「皆の衆、さすがにこの銭では足りん。みんなで少しずつ出し合って、しっかりお金が貯まったら橋を作ろうじゃないか」
長老の一声で話は決まった。物乞いの葬式をすませると、町のみんなは節約に節約を重ね少しずつ少しずつ金は貯まっていった。
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