橋、作りてぇ(2)

 物乞いの男は「ぜん」と呼ばれていた。町の真ん中を通る大通りのごみ拾いをしたり、年寄衆としよりしゅうの相手や簡単な手伝いなんかをして、みんなからわずかながらの金を恵んでもらっていた。大男は名があったがまともには呼んでもらえず、いつしか街のみんなから「おくた」と呼ばれていた。乱暴者であったが、常人では考えられないような力仕事を請け負っていた。いつも飲んだくれている大男がたまたま物乞いを見かけると「貧乏くせぇんだよ!」と軽く蹴飛ばしたり、集めたごみをまた散らかしたりしていた。町のみんなはそれを見てひそひそと話をするが、大男が怖くてはっきり注意したりすることができない。物乞いは微笑んで「また片付けなきゃ。困ったなぁ」と掃除をはじめ、それを見ている大男の豪快な笑い声で終わってしまう。

 この町では(大男は別として)困ったことが一つあった。ちょっと大雨が降ると町の入り口に架かる橋が流される。町は街道から谷に入る形になっているので、橋を直さない限り閉じ込められてしまう。結構頻繁に雨が降るので、結局そのたびに応急レベルの橋を架けるだけである。

 夏の終わり頃から物乞いの姿があまり見られなくなった。そろそろ紅葉が始まる、という頃に気になった年寄衆が、物乞いの住んでいた町から少し外れた山肌の、小屋とも言えないような簡素な住処に様子を見に行った。

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