手妻師たち

手妻師たち(1)

「これは良いお話を聞かせていただきました」


 突然男が三人現れた。例の常習犯の子たちを連れて。声をかけてきた男は、やせ形で背が高い。知的な感じの男だった。


「今そこで転んでケガしてたんで、連れてきてやったよ」


ちょっとガタイのいい古風な男が、背負っていた子を下した。まさに逞しいといった感じ。長髪を後ろで縛っている。もう一人は見るからにひ弱で色白。何かしゃべったようだが声が小さくて聞こえない。左手に目立つバングルをしている。体に釣り合ってない。


 麻美は(あっ!)と思ったが、(ううん、何も見てない。見えてないよ)とボス格の子の襟をつかんで引っ張った。


「すみません、ありがとうございます。ちょっと、だめじゃない!館長先生に注意されてたでしょ!」


「まあまあ。ケガもちょっと擦りむいただけですし、この子たちもちゃんと反省してますよ。そうだ!皆さんのお邪魔をしてしまったから、ちょっと、手妻を見せてあげましょう。私は手妻師てづましの藤ふじ環たまきと言います」


(突然何を言い出すの?)麻美は「あの」と言いかけたが、子どもたちが「てずまってなにー?」と騒ぎ始めたし、館長も「いいんじゃない?」と言う表情をしていたので、そのままやってもらうことにした。(でも、てずまってなに?)


「手妻ってのはな、まぁ簡単に言えば手品の古い言い方だ。ああ、申し遅れた、俺は北條ほうじょう延寿えんじゅ、こいつの友だちだ。こいつのは仕掛けを使うんじゃなくて、手や指の動きだけで物を動かしたりするパフォーマンスなんだ。だからこいつはわざわざ『手妻』っていうんだよ。まぁ見てみなって」ガタイのいい男がみんなを黙らせた。


「みんな、カードのマジックは知ってるよね、そうあれですよ。ただ残念なことに今日はカードを持ってない。そうですね、今日は指輪の曲芸をお見せしましょう。はい、みんなもっと集まって。ではいきますよ」

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