女刑事の場合(前編)
警視庁捜査一課のデスクは、事件の捜査に出かけている刑事が多く日中は人気が少ない。
そんな空席が連なる机の一番隅にある席で、一人の女がつまらなそうに書類を眺めていた。
記録欄にはさまざまな理由で行方不明になったと記されていたが、最後には必ず以後詳細不明、とも記されていた。
これらは行方不明になって捜査がされたものの行方が掴めないまま終わった人達の資料だった。黒瀬はこの中から再度誘拐の可能性がなかったか調べ直す、という気の遠くなるような仕事を任されていた。
要は、窓際である。
かつて黒瀬も第一線の刑事として活躍していた。
結婚、妊娠をして休職をしていたのだが、流産をしてしまう。そのショックから職場復帰後も身が入らずミスを犯し、雑用仕事として行方不明者リストの整理を言い渡された。
黒瀬自身も、男社会の警察で女が出しゃばったからこんなことになるのだと暗に言われていることは分かっていた。
でも未だ心の奥にある正義感と、二度と子を産めぬ体になって仕事しか残されてないという焦燥感から、辞職は切り出せなかった。
根が真面目な黒瀬は、退屈ではあるものの資料に目を通し続けていると、不思議なことに気づいた。
数枚の女子高生の行方不明資料によると、似た条件で少女達が姿を消しているようだ。
記憶を辿ってその資料達を集め直すと、やはり似ている。
彼女達は
・冬休み前の学校内、あるいは下校中に制服のまま姿を消した。
・片親で身寄りが少なく、消息が消えても気づかれるまでに時間がかかった。もしくは親からの関心が薄いために警察への通報が遅れた。
・ある一人の教員が在籍している時に行方不明になった。
……偶然にしては似通いすぎている。特に資料に付属していた関係者リストにある、当時の教員の中に必ず同じ名前の人物がいた。
田中京子。
彼女の名前を警察のネットワークで調べたものの前科は一切出なかった。
当時の関係者の証言を調べるために資料室へ行く。田中の証言を読んだが、至って平凡などこにでもいる教員と感じた。
ただ、平凡すぎる、とも感じた。
黒瀬の持論では、教員は仕事柄生徒に物を教える時に印象に残りやすいよう教えようとする内にキャラクター性が生まれやすい。証言からもそれが滲み出やすいのに、田中はドラマや漫画で描かれるような、教員を絵に描いたような人物に見受けられ、まるで作り物のように感じた。
しかも少女達の行方不明が起こった一二年以内に必ず別の学校へ移っている。
もしかしたら、田中が少女達の行方不明と何らかの形で関わっているのかもしれない。
そう直感した黒瀬は、優秀なのに定時で帰りたいという理由で資料整理をやっている部下
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