第8話

「幸運」






 京子は徹底して警察に見つからないように過ごしていたはずだった。しかし勘がいいのか、運がいい奴なのか、刑事達が京子の家を訪ねてきた。






 刑事達は上司のような女と、部下のようで女に対して太鼓持ちをしているのが見え見えの男という二人一組だった。




 女刑事が言うには、未解決の行方不明の少女達を再捜査しているうちに京子の赴任している学校で起こったものが何件かあることに気づいたそうだ。そこで、彼女達の様子に何か気づいた点がないか聞きにきた、と言ってきた。


 京子は、彼女達についてはもう捜査の時に話したと伝える。

 しかし刑事はもう一度詳しく聞かせてくれ、との一点張りで京子の家から立ち去る気配がない。

 京子は刑事の話にある程度付き合う方が自然だろうと考え、刑事達を家の中に上げた。








 女刑事は作品達の過去の記録と京子の赴任した学校の履歴、赴任するタイミング、それらを関連付けて家に辿り着いたようだ。

 京子はあたかも一教員の立場として捜査に協力するフリをして捜査状況を聞き出すことにした。

 しかし刑事の方も状況証拠しかないようで京子のもみ消した証拠には気づいてないようだった。女刑事も京子からの自白だけで逮捕しようとしているのか、何度も同じ証拠を見せては行方不明の女子高生達が可哀想だななんだのとしかいい募らない。


 初期捜査当時にも散々聞かされた言葉に飽き飽きとしつつ、適当な相槌を打って流している京子に痺れを切らした女刑事がいきなり持論を語り始めた。








 自分はどんな悪も許せない。たとえ犯人に正当な理由があると思っていてもそれは勘違いも甚だしい。それは人を傷つけていい理由にはならないし、人を傷つけたなら必ず償いをするべきだ。

 この行方不明の少女達も、状況的に苦しくても立ち向かおうとしていたはずでいきなり消えるなんてのはおかしい。少なくとも自ら消えようとしてたなら兆候があったはずなのにどの子にもその様子が見られなかった。となると卑劣な犯罪者が彼女達を誘拐して、生死はわからないが、彼女達の未来を摘み取ったことだけは確かだ。




 自分は犯人を絶対に許せない。必ず捕まえてみせる。
















 陳腐で偽善の塊のセリフに京子はイラっとした。






 京子だって苦悩して選んではいけない道だと知りながら選んだのに、ただ"普通"に生きてこられたような奴が何を偉そうに語っているのか。

 人と違う思考を必死に隠して"普通"の人として生活をしなければいけないという圧迫感に悩まされ、結局自分の欲求に従わなければ"普通"の生活を保てない、そんな異常者に生まれてしまった自分を何度呪ったことか。"普通"に生きられたならどんなに良かったことか。

 警察などという"普通"の生活を送ってこれた代表のような奴に私の作品を否定されるのは我慢ならない。しかも資料整理のついででたまたま京子に行き着いた程度の刑事に。










 京子は怒りの感情が渦巻く余りに、ぽろっと、犯罪者にも止むに止まれずに罪を犯した人もいるのでは?と呟いてしまう。


 女刑事は聞き逃さずに、さらに偽善のセリフばかり連ねる。


 京子は耐えきれずに、貴方なんかに理解なんて出来ない!と叫んで刑事達を家から追い出してしまう。








 ちゃんと出て行くか玄関の覗き穴から見守っていると、男の刑事が女刑事にメモを見せながら話しているようだ。ふと男の刑事がこちらを見たような気がした。






 もう、ダメだ。逃れられない。






 京子は捜査で作品を見つられて世間に晒されてしまう。そんな様子を想像して身震いした。

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