第5話 いざ王国へ! 5
メディコが捕らわれている部屋から一番近いと思われる入り口の前に、二つのたいまつと二人の男が配置されていた。入り口に扉はない。マリリは一直線に入り口に飛び込める様に、森の中をじりじりと移動しながらじっと機会を待った。
ドン!
分かっていたはずなのに、マリリは爆発音が聞こえたとき、びくっと体を震わせてしまい、よろめいてしまった。あわてて近くの木をつかみ、体勢を立て直して屋敷の入り口を見つめる。
入り口の見張りについていた二人の男は、マリリ以上の驚きと混乱の様相を呈していた。今の爆発音が、マリリが武器庫に火をつけ、火薬に引火して爆発したものと知らぬ二人は、ただ爆発のした方に目をやり、しばらくきょろきょろとあわてふためくばかりだった。
マリリが焦れながら二人の歩哨を見ていると、マリリが火をつけた小屋の方から数人の男が走ってきた。
「おい! 何があったんだ、兄弟!」
「火事だ! 誰か、武器小屋に火をつけたやつがいるぜ! そいつを捜し出すんだ! いや、火を消す方が先だ!」
男のうち何人かは武器庫の方向に走っていき、何人かは反対側に走っていった。他に見張りに立っている男たちを呼びに行ったのだろう。入り口の前には、マリリのねらい通り、誰もいなくなった。
マリリは自分の作戦がうますぎるほど当たったので、逆に用心しながら屋敷の入り口に向かって、森から飛び出した。屋敷の中に入ってからのことは何も考えていないが、戸惑いはなかった。
「でえ? 火ィつけたやつぁまだ見つかってねえのか?」
「へえ、ですから火はたった今ついたばかりなんでさ! どこのどいつだか知りませんが、武器庫の火種に火ぃつけやがりまして」
マリリは急停止した。薄暗い屋敷の中から、誰かが入り口に向かおうとしているのだ。マリリは左右に目をやって、入り口の脇の地面にぱっと身を伏せた。いや、倒れ込んだと言った方が正しいかも知れない。
「武器庫っておめぇ、見張りはお前ら一年生の仕事じゃねぇのか!」
一年生とは何だろう? マリリは訝しんだが、今は気配を消すことに専念すべきだと考えた。何しろ、今声を発した男ともう一人の男は屋敷の入り口、つまりマリリが倒れているすぐ後ろにまで歩を進めていたのだ。
マリリは息を殺し、後ろの盗賊が早くどこかへ行ってくれるようにと念じた。マリリは何かの陰に隠れているわけではなく、あくまで入り口の脇に倒れ込んでいるだけに過ぎない。今が昼だったら、瞬時に見つけられてしまうだろう。マリリはわずかな光を盗賊達に提供している月とたいまつを呪った。
「へ、へい、しかし先輩、あそこは暗ぇし臭いし、みんななかなか持ち場に着いてくれねえんでさ。まさか火事が起きるな……」
「馬鹿野郎! そこを何とかまとめるのも、てめぇらの仕事じゃねえか!」
偉そうな方の盗賊は、大喝するが早いか、もう一人のへりくだった態度の盗賊を殴り飛ばした様だった。様だったというのは、マリリには、がつっという音しか聞こえなかったからだが、マリリの目の前に、殴られた方の盗賊が倒れ込んできたとき、そのことを確信させられることになった。
殴られた方の盗賊はマリリの目の前に汚らしい顔を向けて倒れた。思いがけず盗賊と向かい合って地面に寝転がることになったマリリは、とうとう見つかってしまったかと思わず目をぎゅっと閉じたが、気の強い方の盗賊はぶつぶつ言いながら火事の現場の方へ歩いていった。
今の一撃だけで、倒れた盗賊は気を失ってしまったようだった。マリリはほっとしながら目だけを動かして気の強い盗賊の姿を追った。常軌を逸した巨大な体躯を持った盗賊が、肩をいからせながら上半身裸で炎が光を発している方向へ歩いていく。どんなに自分が剣術に優れていようと、あんな体の持ち主が相手では話にならないかもしれない。
盗賊の姿が完全に消え去ってから、マリリは体を起こした。武器庫の火災はマリリが期待したよりも激しくなり、マリリのいる場所からでも立ち上る炎がよく見えた。あちこちで盗賊達が何かを怒鳴る声が聞こえる。マリリは今こそが機会と、迷わずに屋敷の中へ躍り込んだ。
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