第5話 いざ王国へ! 3

 マリリは混乱して、三百六十度、あたりを見回した。かなり暗くなってきているが、周りの風景くらいはまだ十分に見える。しかし、マリリのすぐ後ろを歩いていたはずの二人は、もうどこにも見えなかった。


 「……あ!」


 マリリは混乱しながらも、あわてて道の端、崖の斜面へと身を寄せた。思い当たる節があったのだ。マリリは、一瞬にして自分の全身を冷や汗が包んでいくのを感じ、大きく体を震わせた。


 シルトとメディコの二人は、またしても〈黒ひげ王国〉の盗賊達に、さらわれてしまったのではないか? マリリは顔に手を当てた。


 しかし、そうだとしたら、いつの間に二人はさらわれてしまったのだろうか? 全く自分に気づかせることなく、二人を連れさらうなどということが、可能なのだろうか? 確かに今、少し考え事をしていたことはしていたが、全く気を抜いていたわけではない。


 第一、二人がさらわれたのだとしても、なぜ自分は無事なのだ?


 マリリはしばらく考えたのち、シルトのまじないのことを思い出した。シルトが自分にかけていたのは、敵の目から本当に逃れられるまじないだったのか。マリリは下唇がちぎれるほどぎゅっとかみしめた。


 何ということだ。これで、自分は三度も仲間を連れ去られたことになるのだ。マリリは大粒の涙を地面にぽたぽたと落としながら、両の手のひらに爪を堅く食い込ませた。


 「ちくしょうっ、ちくしょうっ、ちくしょうっ!」


 マリリは道の真ん中に飛び出して叫ぶと、剣を抜いたまま馬車の走り去った方向へ全速力で駆けていった。

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