第2話 〈問い〉の答え 2
「そうだ、ヴァイドール、ルナコとウィスミンを知らないか?」
「ウィスミンはもう戻ってるはずだよ~! ルナコはしらねぇ~」
ヴァイドールはあっという間に姿を消し、あとにはけしからぬ酒の臭いだけが残された。
「ウィスミンさん、もう帰ってるんですか?」
「また三階の窓から忍び込んだのだろう。仕方のないやつだ。これでは明日の作戦会議もままならないぞ」
セブリカは顔に当てていた手を今度は顎に当て、そのまま顎をさすりながらしばらく何か思案顔であった。が、やがて突然立ち上がると、毅然とした顔で二人を見た。
「仕方がないな。試合の順番は明日、大会会場で発表するとしよう。だが、あれではヴァイドールが使いものになるものかどうか……。アーナ、マリリ、二人とも今日はもう休んでいいぞ」
「組長は?」
「私は本部に行く用を思い出した。先に休んでいてくれ」
「はい……」
セブリカはそのまますたすたと振り返ることもなく広間の外へ出ていった。後に残されたマリリとアーナは顔を見合わせた。
「組長、怒ってるみたいだったね。明日はどうなっちゃうんだろう」
「うん……。でも、もしヴァイドールが試合に出られないんなら、アーナも試合に出るチャンスがあるかもね」
マリリの言葉に対して、アーナはものすごい顔をしてにらみ返した。思わずびくっと身をすくめるマリリをそのままにして、アーナは先に階段の奥へ姿を消してしまった。
「……あ!」
広間に取り残されてしばらくしてからマリリは気づいた。アーナがここしばらく怒っている理由に、まさに今思い当たったのだった。
〈鋼の問い〉における試合の基本参加人数は、一つの組につき五人。アーナはマリリよりも二つ年上だが、剣技における実力がマリリよりも劣るために〈鋼の問い〉には出場できないのだ。星屑組以外のほかの組は、平均人数が十人前後なので補欠者が特に引け目を感じることもないが、星屑組は六人編成なので、試合に出られないのはアーナだけという事態が起こる。アーナはその点を気にしていたのだ。
「わたし……。どうしよう」
マリリは、自分がここ数ヶ月の間で、もっともひどい失態をおかしたことを知った。
そして〈鋼の問い〉当日。
女神団の面々は都のほぼ中心に位置する〈王立闘技場〉へと足を運んだ。普段、王立闘技場では専属の興行会社たちが毎日のように荒々しい興行を行っていた。男達が命を懸ける真剣勝負や、客公認のいかさま試合など、多彩な闘技が都民達の目を楽しませている。
だが、一年に一度だけ、女神団による〈鋼の問い〉と呼称される剣術大会が一般向け興行の形で開かれているのだ。出場する人間が女神団の人間のみ、つまり女性だけという事もあって、〈鋼の問い〉は王都に住む者たちにすこぶる評判がよかった。
王国の人々は己の商いもそこそこに遠方から闘技場へと押し寄せ、〈鋼の問い〉人気にかこつけた露店や土産物屋が闘技場の内外に軒を連ねた。女神団の〈鋼の問い〉は、まさに都、いや、王国をあげた一大イベントの様相を呈していた。
だが、そんなお祭り騒ぎの気分には、マリリはとてもひたる気にはなれなかった。大事な試合を前に、仲間達の士気は、前年度の実績におごるあまりか限りなく無きに等しく、気持ちもどこかバラバラなように感じられた。今日の体力の状態も怪しい者ばかりだし、なによりマリリは、昨晩から一睡もしていなかった。
「あつつつ……。やっぱり飲み過ぎたかな……」
ヴァイドールが頭を押さえている。アーナが自分の肩を貸しているが、二日酔いでも陽気なヴァイドールとは対照的に、やはり彼女は機嫌が悪いようだ。マリリは夕べ一晩、アーナに対する失言に対する後悔の念に悩まされた。
それに加えて、最近マリリを悩ませている〈もう一つの問題〉がここにきて彼女の心に大きくのしかかってきて、進退窮まったマリリは、とうとう一睡もできなかったのだった。
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