第7話 家族の風景

青色になりたい、ケーキ屋さんになりたい、保育士さんになりたい。

幼かった頃になりたかった夢は今、

「いつか幸せな家庭を築くこと」だ。

25mプールを目をつぶりながら、

足をバタつかせ踠き、暗闇の中真っ直ぐ

正しく泳いでると信じ、顔をあげると全く

違うレーンだったそれと似ている。


医師から「流産です」と告げられた。

私はいよいよ違うレーンにすら到着しな

かった。

今の彼つまり旦那になる人とは、高校2年生の夏、山梨県のフェスで知り合った、私は

皆が部活に青春を捧げるなか、バイトを

掛け持ちして大好きだったバンドグループの追っかけをしていた。


その日は関西から夜行バスに長時間揺られたことに加え人混みと猛暑で、倒れそうになり休憩していたところに、声をかけられたのが始まりだった。


「しんどそうだね、大丈夫?」

私は恥ずかしさと疲れで、首を縦に振るのが、精一杯だった。

飲み物を買ってきてくれた彼は、

「俺、荷物番させられてるんだ」と言い

そこから、友達についてきたことやフェスに来たのが初めてだということ、それ以外にも話していた。

その時、彼について把握したのは、同じ関西から来ていたこと、歳は6歳上だということ、あと、私のタイプではなかったこと。

でも疲れは何故か消えて連絡先を交換した。


いつだったか彼と2人で話していた。

「子供ができたら俺は教えたいことがる

どれだけ君の母親が素晴らしいか、

どれだけチョコレートは甘いか、そして

いつでも俺たちは君の味方だということを」


静かな病室で「どうして私なんだろう?」と思った。

本来その場所は新しい命を授かり喜び合う人々の場所なのに。


放心状態が続いた。


しばらく経った今、これはこれでよかったのかもと思えるようになった。

付き合っていた彼とは、ぐずぐず進まず別れたりもした。でも結婚するきっかけを、あの子はくれた。


だから、あの子はまた私のところに戻って

きてくれると信じている。

今度は、「幸せの家庭を築く」という

私の夢に真っ直ぐ辿り着くように。

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