第3話 染まるよ

「ありがとうございました!」

お客様を見送り、カフェの閉店業務を行う。

そして、いつもと同じ時間に退勤する。

いつもと同じ電車、同じ車両に乗り最寄駅の改札口を先頭で通り過ぎる、21時28分着の部、改札首位通過記録を私は密かに狙っている。

コンビニで買った缶ビールを片手に

真由はいつも通りの帰路につく。


私が、店長として働く都内のカフェはドライフラワーやネオンサインの看板をインスタグラムに投稿する人が増え、(特に女子校生、女子大生)人気を誇るカフェとなった。


彼女たちを見ると思い出す10年前。


高校3年生、春の高校バレー全国大会1回戦。

徳島県代表の私たちは。

その年の優勝校に敗れた。

試合後、電車の乗り換えに苦戦しながらみんなで見に行ったハチ公、スクランブル交差点、109。


喧騒すらも輝かしく華やかな「東京」に胸が

躍った。

所謂、ミーハーだった女子高生は、

「東京の大学へ行く」と決め

一瞬の時を経て28歳になろうとしていた。


先日、大学時代の友人の裕里から結婚式の

招待状が届き出席欄を丸で囲んだ。


周りが結婚してゆく中で私は、適当な恋愛ばかりをして、適当の報いとしてご祝儀を払う。


「明日行ってもいい?」

と彼から連絡が来た。

「いいよ」と私は、返事を返した。


これが私の適当な恋愛。

付き合ってるわけではないが、彼はよくうちにくる。彼の事を私は好きだ。


いい加減にこの関係も抜け出さなくては

いけない。理解しているけど

でも、彼に会える方法は都合よくなる。

彼を受け入れるしかない。


何度か彼に「どこかに出掛けてみない?」

と提案したことがあるが「仕事が忙しい」

と言われ続けた。


あの試合と同じように、尽く打っては跳ね返されたブロックの様に、それでも彼がうちに来る度にトスは私に上がってくる。

もうスパイクを打つ勇気もなくなった。


行為が終わった後の寂しさに、私はいつも

涙しそうになる。

あの涙はどこからくるのだろう。


彼に別の女性がいる事を私は気づいていたが

その事実を聞いてしまうと、この関係も

終わってしまう様な気がした。


でも、もしかしたら彼は私の存在の大きさに気付いてくれるかもしれない。

変わってくれるかもしれないと甘く淡い、

期待がいつもある。


帰り道のズレは許されないのに恋愛においては真っ直ぐ上手にできない。

私の不器用な性格。

大学時代から相手には別の相手がいる事が

多かった。


人の恋愛は第三者として恋愛評論家の如く

ズバズバ物を言うのにね。


帰宅後ベランダで、慣れないタバコを吸った。

あの時感じたこの街への憧れは、吐いた

煙の様に形をなくし遠くへ消えた。

思い出す事もできない。


地元の空とは、違い見上げても星がない空。

でも、ひとつだけ見える名前も知らない星を私は愛せるようになった。


明日が28歳の誕生日。

彼に祝ってもらえるかな。


そういえば裕里に、昔別れた方がいいって言った男がいたな。

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