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瑠奈は、言い表す事の出来ない感情を抱きながらも、それを柚依にぶつけることは無かった
だが、柚依はそんな瑠奈の心境に気づくことなく、残酷な事実を告げる
「私、明日から、イリヤと暮らしてみる事にしようと思うの」
涼やかに告げられた言葉は、明らかに日常を壊すものでしかなく、不快感を露わにした瑠奈を見て、柚依は悲しそうに眉を下げた
「やっぱり、反対するわよね」
「どうして?」
どうして、イリヤなの?
言外にそう訊ねれば、柚依ははじめて見る柔らかく優しい笑顔で理由を告げる
それがどれほど瑠奈にとっての衝撃となるかわかっていたならば、二人きりで過ごす時間の一部を使って告げる事は無かっただろう
だが、そのことを理解するほど、柚依も情緒が育ってはいないのだ
自己の思考と他者の思考が違う。という当たり前のように受け入れられている思考が備わっていない
その危険性に気づいていたならば、この歪な実験の軌道修正は可能だったのかもしれない
だが、モニター越しに見ている二人もまた、そのことを理解できていなかった
「おぉ、これが、情緒ってやつかねぇ」
「わからないけど、瑠奈の心拍数や呼吸に異常が見られるよ」
「あれぇ~? 柚依じゃなくて?」
「そう。柚依は正常値。イリヤと関わっている間の方が変化が見られる」
「それは不思議だね」
二人はモニターに表示されている数値を見ながら、首を傾げる
嫉妬
独占欲
愛憎
それらを知識としてではなく、自らの体感として理解していたならば……
悲劇的な未来へ向かう音は、モニターからもたらされている。だが、それに気づけないまま、AIが導いた回答を記録に残し、今日の観測を終えた
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