7

瑠奈は、言い表す事の出来ない感情を抱きながらも、それを柚依にぶつけることは無かった

だが、柚依はそんな瑠奈の心境に気づくことなく、残酷な事実を告げる


「私、明日から、イリヤと暮らしてみる事にしようと思うの」


涼やかに告げられた言葉は、明らかに日常を壊すものでしかなく、不快感を露わにした瑠奈を見て、柚依は悲しそうに眉を下げた


「やっぱり、反対するわよね」


「どうして?」


どうして、イリヤなの?

言外にそう訊ねれば、柚依ははじめて見る柔らかく優しい笑顔で理由を告げる

それがどれほど瑠奈にとっての衝撃となるかわかっていたならば、二人きりで過ごす時間の一部を使って告げる事は無かっただろう

だが、そのことを理解するほど、柚依も情緒が育ってはいないのだ


自己の思考と他者の思考が違う。という当たり前のように受け入れられている思考が備わっていない

その危険性に気づいていたならば、この歪な実験の軌道修正は可能だったのかもしれない

だが、モニター越しに見ている二人もまた、そのことを理解できていなかった


「おぉ、これが、情緒ってやつかねぇ」


「わからないけど、瑠奈の心拍数や呼吸に異常が見られるよ」


「あれぇ~? 柚依じゃなくて?」


「そう。柚依は正常値。イリヤと関わっている間の方が変化が見られる」


「それは不思議だね」


二人はモニターに表示されている数値を見ながら、首を傾げる


嫉妬


独占欲


愛憎


それらを知識としてではなく、自らの体感として理解していたならば……

悲劇的な未来へ向かう音は、モニターからもたらされている。だが、それに気づけないまま、AIが導いた回答を記録に残し、今日の観測を終えた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る