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木漏れ日を辿りながら、緩やかな登坂を歩き上り切った先
そこにあるのは、美しいステンドグラスが特徴的な、教会を思わせる作りの建物。鮮やかに咲き誇る色とりどりの薔薇のアーチを潜り抜け、敷地に立ち入れば、庭園が広がっていた
薔薇を主体とした庭の中心には花時計が置かれ、日差しと共に時間の経過を伝えている。この空間で日暮れまで過ごし、日が暮れたら、眠る場所に戻るのが二人の日課だった
二人は庭園を真っ直ぐ突っ切り、重たい扉をゆっくりと開ける
手招くような音を立てながら、扉は開かれ、先に柚依が室内に入る
長椅子が置かれ、前方に教壇のような机が設置されている
旧世界であれば、教会と確実に呼ばれているであろう建物は、二人にとっての学校であり、二人が唯一この世界の中で他人と出会う場所でもあった
「おはようございます」
柚依の挨拶が室内に響くが、挨拶が返ってくることは無い
瑠奈がゆっくりと後に続いたが、やはり人の気配はなかった
「おかしいな。瑠奈。ちょっと、そこに座っていてくれる?」
「えぇ……でも、もうすぐ授業の時間だもの。新しい先生を探しに行くのなら、もう少し待ってみたらどうかしら?」
「……それもそうだね。もう少し、待ってみよう」
瑠奈の言葉に頷くと、柚依は椅子の上に置きっぱなしにしていた鞄を手に取り、瑠奈の隣に腰かける
瑠奈は、甘えたような表情で笑いかけると、そのまま体を傾け、柚依の膝に頭を乗せた。柚依は少しだけ困ったように眉を下げたが、何も言わずに瑠奈の長い髪を指で丁寧に梳いていく
「新しい方、どんな方なのかしら?」
「さぁ? 一年ごとに代わるから、よくわからないわ」
「いい人ならいいのだけれど」
「悪い人はいないよ。どの先生もいい先生だったわ」
新しい他人に対する不安は、この二人には常にあった
二人きりの静かな世界で過ごしているだけに、第三者の干渉を好まない傾向にあったのだ。それでも、学校に通い、日が暮れるまで教師と対話をする
それが心情的にあまり好ましくないものであっても、二人はそうしなければならないと植え付けられている。記憶と思考を支配されては、二人に抵抗するなどという発想は出てこないだろう
そもそも、観察者であるガイツ達は、以前ツヴァイ達が実施した箱庭で思考の自由は危険性が高いことを学んでいた。その為、ある程度、思考に制限を設けており、この生活がなぜ必要なのか。何のために学校に行くのか。等、疑問を抱きそうな事柄に関しては、気にしないように深く植え付けた
疑問を抱かないからこそ、好ましくない日課も淡々とこなしていける。その点では、過去の失敗から学ぶものは大きかったと言える
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