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 朝日を受けて、アスファルトをキャンパスとして木漏れ日が美しい画を描いていく。星々の煌めきのような光は地上に出来た天の川のようだ

 膝より少し下の丈。紺色のプリーツスカートを履き、同色のジャケット、リボンタイを纏っている少女は、腰まである深藍の髪を結ぶこともなく風に泳がせながら歩いていた。右手には黒色の学生鞄。全体が白く、紺色のリボンで縁を飾っているベレー帽を左手に握りしめ、のんびりと、ゆったりと目的地に向かって歩く。ふわりと温かな風がいたずらにスカートを捲りあげ、線の細い太ももが一瞬、空気に晒される。そこには、星の形をした痣のようなものがくっきりと浮かんでいた


「おはよう」


 前だけを向いて歩く彼女の前方。街路樹に寄りかかるように立っている少女が、片手を挙げて声を掛けた。膝より少し上に丈を詰め、ジャケットの代わりに白いカーディガンを羽織っている。リボンタイは外され、ベレー帽の代わりに黒色のカチューシャを付けていた。肩より少し長い黒髪は、黒檀に近い色の髪だ、学生鞄を持っているわけでもないのだが、声を掛けると同時に駆け寄り、彼女が持っている鞄をさりげなく受け取った。はらりと耳にかけていた髪が頬にかかる。耳の後ろ。髪の陰に隠れてしまうような位置に、月の形をした痣のようなものが浮かんでいた。


「おはよう。瑠奈るな

 あなた、鞄は?」


「学校において来てあるわ。柚依ゆえこそ、今日はゆっくりだったのね」


 瑠奈と呼ばれた少女は、半歩先を歩きながら柚依と呼んだ少女の反応を伺うように振り返る。柚依は、目を細めて頭上を見上げた


「天気がよかったものだから。遠回りしていたの」


 そう言って見上げた空の遥か頭上

 特殊な加工を施された硝子。彼女達と似通った姿の存在が複数人。その会話と行動を観察していた


「はー、いいね。いいね。アオハルだね!」


「……旧世界の情報に影響されすぎだよ」


「ニホンって国には、こういう文化があったらしいんだよ! よくわからないけれど、こういうものをアオハルっていうらしいよ」


「青春の事でしょ? にしても、よく旧世界の情報を手にしたね。それも、旧世界でもかなり古いやつ」


「人はどうして子孫の繁栄を行う事が出来たのか。それを知るために、本能と感情について知りたいと言ったら、見せてくれたわよ?」


「はぁ……、それで見れたら、皆今頃旧世界の歴史について全てを知っているはずじゃないか」


「まぁ、そこは、ほら、私だから」


「ガイツの言う事はよくわらからないよ」


「まぁまぁ、そのおかげで、ヴォルストも旧世界の知識が得られているんだし、いいじゃない」


 決して静かとは言い難いほどに話し、笑いながら、それでも彼らはモニターから目を離す事はない

 口伝でしか残っていないはずの旧世界に関する書物を、ガイツと呼ばれた青年はどういうわけか手にしていた。狭く隔離された世界の中で、彼らは必死に知ろうとしている。寿命すらなにかに管理され、情報は口伝でしか伝わっていない世界。その原因を知りたいと思い、探るために検証を重ねているのだ。他愛ない会話は自由に行うが、決して彼らの意識が対象から逸れたわけではない

 その証拠に、モニターに第三者が入った瞬間。二人は会話をやめて、コンピューターが拾う音声に耳を澄ませたのだから

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