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アダムが何度連れ戻しても、何度説得しても、エリスは隙を見てはそこに行き、指を立て続けた

既に爪は剥げ、先端の皮膚が摩擦で捲れている

それでも、見えない壁を壊そうと動き続けるエリスの姿は、モニター越しにも伝わるほど狂っていた


AIは二人より遥かに優れた学習能力を示し、エリスの行動を監視し、アダムをエリスの監視者に仕立てていった

アダムにとって、言語の通じる同志であり、自身より弱く守るべき存在のエリスが狂う事に対して思うところがないわけではなかったが、AIの言葉を神のものとし、忠実に従い続けた

だが、そのアダムの姿すら、エリスには不気味に見えていたのだ。そこにAIも、アダム自身も気づけていたなら、連れ戻し、動かないように説得するなどという行為よりもエリスの話を聞き、落ち着かせるための行動に出ただろう


AIは感情に対する成長がなかった


アダムは神とされるAIやアイン達の言葉に忠実すぎた


アイン達は、初めて任された実験場の管理に浮かれ過ぎていた


それらの罪を罪と認識する事すら、彼らにはできなかったのだ


エリスの孤独と恐怖に寄り添う存在はなく、見えない障害に阻まれた世界に対する疑念を話す相手すらいない

それもそうなのだ

エリスと違い、アダムはそういうものだ。と、納得し、そこから先を考える事はしなかったのだから


何故。という感覚を強く持っているエリスに対する答えを持ち合わせていないのだ


寝食すら忘れ、ひたすらにそこに通い続けるエリスには、アダムの言葉も、神の言葉も届くことは無い


「なんで、なんで……」


呟くエリスの手は自身の血で染まり、それを止めようとするアダムの手も染めていく

しばらくして、アダムはエリスを止めるのではなく、疲れるまで好きにやらせることに切り替えた

指示には従わず、エリスが疲れたら連れ帰る。そんな日々を淡々と送り始めた


アダムとエリスの姿は、アイン達にとってどうしようもないほどに、実験の失敗を見せつけており、文明の形成ではなく、狂う工程を見せつけられることは、悔しくもあり悲しくもあるが、それをどうこうする力すら、二人にはないのだ

過信による崩壊は、二人から意欲を奪い取っていた

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