9
アダムは、エリスに対して何も気にしていないようにふるまった
何事もなく埋め、なかったことにする
だが、エリスにはアダムと同じ形をしたものが腐っていたことに対する恐怖と、神が答えてくれなかった事による不信に支配され、アダムがかけた言葉も聞かずに、その場を走り去ってしまった
アダムは追うか躊躇う素振りを見せたが、結局は追わずに空を見上げた
「神よ。この世界にある見えないモノと、彼らの死はなにか理由があるのですか」
静かに、穏やかにアダムは問いかける
「アダム。エリスをつれ戻して下さい」
「……それが、あなたの答えか」
アダムの問いに対する答えをAIは持っていない
答えてしまえば、作り出した箱庭にいる理由も含めて説明しなければならなくなるのだ
それは、得策ではないと二人は判断していた
もしも、アダムのいる世界が自身が作り出した箱庭である。と告げてしまえば、アダムたちはその世界を拒絶するかもしれない。そうなると、倫理的に実験を続ける事に対する反対意見が起きてしまう
文明の築きを見るための実験が、自分たちが外の世界を知るための実験が、すべて無駄になってしまう
二人にとって大切なのは、アダムたちではなく、この実験を続ける事が出来るかどうかなのだ
最初の二人の死は、不幸な事故として片付けている
だが、これ以上問題が起きたら、もう事故としての処理は難しいだろう
知能と、知識がどう変化していくかを見た
学習がどのように行われていくのかを見た
まだ、まだ、検証していない仮説が山ほどあるのだ
二人は目の前のアダムではなく、遥か先の未来を見続けていた
足元を見なければならない。とわかっているようでいなかった
だが、その後悔すら時間が赦さなかった
「障壁に異常。ごく僅かな破損を確認しました。モニターを表示します」
AIの音声と共に映し出された光景
エリスが、壁に気づきそれを爪でかいているのだ
何度も、何度も
エリスからはわからないが、壁にはエリスの血がべったりとついている。剥げた爪が僅かに傷をつけているのがツヴァイ達にはよく見えた
「なんてことだ……」
やめるように伝えても、エリスの手は止まらない
声にならないほど甲高く叫んでは壁に手をかける
こんなことなら、もう少し広いエリアを選択すればよかった
見ているだけの二人は、同じ後悔を抱く
だが、それすらもう手遅れなのだ
エリスは、アダムが壁から無理矢理はがすまで血まみれの手でそれを掻き続けていた
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