8

エリスは暫し黙り、考える素振りを見せた

しかし、音声に従い元に戻すという選択をすることはなかった


指先から腕に染み込んでいくかのような腐臭に顔をしかめ、数度吐きながらも、掘り起こして暴いていく


アダムが戻ってくる頃には、爪の間に入り込んだ腐りきった肉を出そうとエリスは葉の先を爪に入れて動かしており、そのそばには、かつてアダムが埋めた者達が暴かれていた


アダムはエリスと、掘り起こされた死体を交互に眺め、空を見上げる


「アダム。それを元に戻してください」


指示を受ければ、アダムは無言で頷き粛々と埋めていく

だが、ツヴァイ達は小さく呟いた言葉を聞き逃さなかった


「死して腐った獣と同じ臭い

神はこれを殺したのだ」


アダムは賢く、警戒心が強かった

死にはふたつあるということを、獣で学んでいた

自然に命を落とすか、他者に奪われるか

そして、自身がかつて埋めたものがなんであったか、薄々理解もしていた

それを口にしなかったのも、警戒心ゆえのものだ


アダムは既に気づいていた


神と名乗るものは、獣を観察する自分と似ていることを


この世界には不思議な見えないものがあり、一定の範囲しか行動できないことを


神と呼ばれる人間が与える知識には、偏りがあるということを


その全てを悟らせないようにしてきたのだ

だが、小さな呟きはツヴァイ達の耳に届き、二人はモニターの向こうで忠実に埋め直しているアダムに対して、畏怖にもにた感情を抱いていた


学習能力と知能の高さ


それを、どのように判断すべきか

答えが見つからないまま、エリスに気を配ることもなく、二人は顔を見合わせた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る