第14話 冒険者の鎧もブランド

「うげ~」


「おい……、この位で吐くなよ……。冒険者やっていけねえぞ」


 今日はダンジョン探索は休み。

 師匠とは一日別行動で、俺はギルドで魔物解体の実技指導を受けている。


 ギルドの解体担当のミルコさんが指導をしてくれている。

 ミルコさんは冒険者から、肉屋、ブッチャーと呼ばれている。

 元冒険者でつるっぱけの親父さんだ。


 ルドルのダンジョン3階層で出るホーンラビットを解体しているのだが……。

 正直、かなりグロイ。

 日本人感覚が残っている転生者の俺にはかなりキツイ。


 ホーンラビットはウサギ型の魔物で、中型犬くらいのサイズがある。

 肉と毛皮と魔石が売れる。

 ホーンラビットのミートパイはこの街の名物で、肉の需要は常にあり価格も安定している。

 売れる素材が多いので、初心者冒険者にはありがたい獲物だ。

 だが、解体は……、俺には……。


「そんなにダメか? なら手数料を払ってギルドに解体依頼をしてくれ」


 先生役のミルコさんは笑顔でホーンラビットの内臓をゴミ箱に放り込んでいる。

 後でダンジョンに捨てれば、ダンジョンに吸収されてきれいに処理できる。

 ゴミ箱は売り物にならない部分、内臓やら何やらで一杯だ。

 グロイ。


「解体の手数料は、おいくらでしょうか?」


「ホーンラビットサイズなら、大銅貨1枚、1000ゴルドだな」


 ギルドに手数料を払って解体してもらう方法もあるが、それだと収入が減るなあ。

 それに現地で解体しないで運ぶとなると1体、ないし、2体が限度だ。


 師匠のマジックバッグを使わせてもらえれば一番良いのだけれど……。

 まあいつまで一緒に行動してくれるかわからない。

 アテにしないでおこう。


 ダンジョン内で解体して肉と毛皮と魔石だけを回収すれば、3、4体分を運べる。

 解体の手数料もかからない。

 こっちの方が絶対実入りが良い。


 魔物の解体はこれから先冒険者としてやっていくには、覚えないといけない技術だ。

 師匠にも覚えるように言われたしな。

 しかし……。


「おえっぷ!」


「オマエは手数料を払った方が、絶対良いって……」


 はい、そうかもしれませんね……。


 冒険者のランクがEランクになったので、この魔物解体指導を受けられるようになった。

 それで張り切っていたのだけれど、もうすっかり嫌になってしまった。


 こういう指導が受けられるのも、ランクアップの特典の一つなんだけど……。

 無料じゃないんだよね。


 この魔物解体講座の受講費用は、大銅貨3枚、3000ゴルドだ。

 結構シビア。



 *



 解体講座が終わると、武器防具屋に向かった。

 師匠から鎧を買っておくように言われている。


 3階層からホーンラビットが出るが、額に角が付いている。

 この一撃が、かなり危ない。

 3階層に降りるなら防具は必須だ。


 昨日、行方不明者捜索で稼いだ15万ゴルドがあるので、今日は他にも買い物をする。


「15万ゴルドなんて大金は初めて稼いだ! ムフフ!」


 ルドルで一番大きい武器屋に来た。

 ここは商人が経営していて、武器から防具まで幅広く揃ってる。

 中古品も置いている。

 ちなみに個人経営の工房もあるけど、基本的にオーダーメイドなので高い。


「まずは中古から見ますか。ショートソードもここで買ったし」


 中古コーナーをぶらつく。

 しかし、中古の革鎧をスキルで【鑑定】したが、防御力が+1とか+2とかで、かなり心もとない。


 防具は消耗品なのかな。

 魔物と戦えば、そりゃ防御力も落ちるよな。


 俺の場合はステータスが低い。

 だから防具はある程度金をかけてしっかり揃えていきたい。

 シンディを救い出すために金を貯める必要はあるが、その為に装備をケチッって死んでしまっては意味がない。

 中古品はパスだ。


「新品はどうかな?」


 中古コーナーを後にして、新品の防具コーナーに移動する。

 誇らしげにボルツの黒い小ぶりな丸盾が、目立つ所に展示してある。


 ボルツは重装備の戦士系に熱烈に指示されている王都にある工房だ。

 いわゆるブランド品だね。

 ボルツのトレードマークの黒塗りの盾は、1000万ゴルド!

 小ぶりな盾でこれだからな。


「【鑑定】……」


 俺は試しにスキルで【鑑定】してみる事にした。



 -------------------


 ボルツ製ラウンドシールド(黒鋼) 防御力+500


 -------------------



 防御力がインフレしている……。

 圧倒的過ぎる……。

 さすがはボルツ……。


 素材の黒鋼は、鋼鉄に何かを混ぜ大幅に強度を高めた金属らしい。

 レシピは秘伝でボルツの工房でも限られた職人しか知らされていないとか。

 さすがにブランド物。

 素材も超1級品。


 でも、こんな防御力の高い盾は、初心者向けのルドルのダンジョンでは、あきらかなオーバースペックだよな。

 客寄せ用の展示品だな。

 目の毒だ、次行こう。


 あるある。

 革鎧とチェーンメイルが置いてある。


「【鑑定】っと……」



 -------------------


 革の鎧(オーク) 防御力+5


 -------------------



 オークって日本のマンガ(主に薄い本)でおなじみの太った豚みたいな人型の魔物だよな。

 じゃあ、豚革って感じか。


 お値段は5万ゴルド。

 剣道の胴みたいな形で、胴体はしかり守ってくれそう。

 軽いのが良い。

 けど、防御力+5ってのは、低い様な……。


 次は……。



 -------------------


 チェーンメイル(鉄) 防御力+10


 -------------------



 チェーンメイルは、いわゆる鎖帷子だ。

 オークの革鎧の倍の防御力がある。

 お値段は10万ゴルド。

 一応予算内。


 だが、重い!

 これを来てダンジョン探索は体力的に無理だ。

 俺の肉体は12才だからな……。


 そうすると、オークの革鎧か……。

 うーん、イマイチな気がする。



 あれ? これなんだ?



 隅の方に焼け跡や剣で斬りつけた跡のあるボロイ革鎧が置いてある。

 中古品か?


 造りは悪くない。

 襟があって首元までしっかりカバーしてくれる造りになってる。

 肩口にも革が張られている。


 重さは……?

 うん。持ってみたけど、それほど重くない。


「【鑑定】……」



 -------------------


 ボルツ製革の鎧(オーガ) 防御力+38


 -------------------



 はい!?

 ボルツ製なの!?

 黒くないぞ?


 素材がオーガって……。。

 オーガって人型の無茶苦茶強い鬼みたいな魔物だよな。

 防御力が+38……。

 ボルツ製にしては低い気がするが、チェーンメールよりもはるかに高い防御力だ。


「すいませーん」


 俺は中年の店主に声を掛けた。

 店主はニコニコと笑顔でこちらに来た。


「この革鎧は中古ですか?」


「いえ、これは新品です」


「それにしては傷が付いてますが?」


「これは事情がありまして……」


 店主の話をまとめると……。

 とある有名工房で見習いが練習用にオーガの余った革で鎧を作った。

 余った革だから、オーガを倒す時についた魔法や剣の跡が付いている。

 仕入れの時に、この鎧をオマケでもらって来た。

 正規品ではないので、工房の名前は出せない。

 って感じらしい。


 有名工房ってボルツだよね。

 俺のスキル【鑑定】で名前がでちゃってるから、俺は知っている。


 つーか、本当に貰って来たの?

 ボルツのゴミ捨て場から拾って来たんじゃ?


 いずれにしろ、仕入れはゼロな訳だ。

 なら安くしてもらえるんじゃ?

 ちょっと価格交渉してみるか……。


「うーん、しかし、この傷や焼け跡は目立ちますよね……」


「気になりますか?」


「そりゃ、こっちの革鎧の方がピカピカの新品ですよね」


「そっちはオークの革、こっちはオーガの革ですよ! 素材が違いますよ!」


「うーん……」


 店主は随分押してくるな。

 ボルツのブランド名も出せないし、見た目は中古だからなかなか売れないのだろうな。

 店主は価格交渉を始めた。


「では、8万ゴルドでどうでしょう?」


 8万なら悪くない。

 けど、これからも出費はあるだろうから、なるたけ安く買いたい。


「予算オーバーですよ」


「予算はおいくらで?」


「革鎧を買いに来たので、6万ゴルドです」


「うーん」


「他にも解体用のナイフとか、道具屋で獲物を入れる袋やレーションやら細々買うので……」


「なるほど……。では、解体用のナイフと合わせて7万ゴルドでどうでしょう?」


 解体用のナイフは、確か8千ゴルド。

 あのボルツの革鎧が、6万2千ゴルドって事だよな。


「それなら大丈夫です。サイズ調整はしてもらえますか?」


「もちろんですよ!」


 うーし!

 ボルツの革鎧が手に入った!

 見た目は悪いけど、防御力はある。

 ルドルのダンジョンなら十分なスペックだろう。


 俺はサイズ調整してもらったボルツの革鎧を着て、ダンジョンに向かう事にした。

 ちょっと気になっていたことがあるので、ダンジョンで調べたい。

 まだ昼頃なので道具屋は帰りに寄れば良い。


 道ですれ違う人がチラチラと俺の方を見る。

 12才のまだ子供なのに、傷だらけの革鎧を着ているギャップが凄いんだろうね。


 見た目は子供なのに、歴戦の勇者的な革鎧、なかなかハッタリが効いて良いかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る