監視カメラ

 警察が来て、犯人を連れて行ってくれた。盗撮だ。お客さんたちは大騒ぎになっていた。男湯にまで聞こえるような音が出たわけではないけれど、何人も警官がいれば、それは目立つ。しかも土曜の夕方の混雑時である。なんともみっともないことになってしまった。


 そんなことがあったので、わが超ベリースペシャル温泉は、反省を形にした。スーパー銭湯である以上、お客さんは必ず全裸になる。ここをなんとかできないかとも考えたが、やはり無理だ。そこで、盗撮犯人を許さない宣言をすることになったのである。

 脱衣場でカメラを出しているお客さんがいたら、すぐ止める。男湯と女湯に専属のバイトを一人ずつ張り付けて。それだけでも、出費はばかにならない。でも、それくらいのことをしないと、信用は取り戻せない。

 お客さんの評判は微妙だ。客商売として、うるさいことを言うのはよろしくない。湯船でタオルを泳がせる客がいても、注意などせず塩素を多めに入れるだけで済ませる。そんな商売をやってきたので、確かに、突然注意すると印象が悪い。経費も重い。毎日2万円以上が出て行くのだから、年間で考えると利益が吹き飛びかねない。

 そこで次は、監視カメラをつけることにした。盗撮すれば見つかって警察に渡される、証拠がきちんと残る。犯人にそれがわかるようにするのだ。業者に相談して、一日だけ営業を止めて、機械一式を置くことにした。難しいことはよくわからないので、業者任せにした。

 監視カメラは、盗撮防止用だけではない。盗みとか揉め事にも対応できる。一式は高いが、長く使えば元は取れる。店長の特権で、女湯を見ることもできる。ただ、うれしいものばかり見られるわけでもないので、すぐ飽きたけれど。


 監視カメラは、効いた。ただ、湿気が多い環境なので、あっという間に故障した。最初のときは、業者に頼んで、修理代もなんとか保証でまかなった。しかし、同じことが何度も起きる。その支出もけっこうなものになった。

 そうこうするうちに、映像が流出していることを知った。何ヶ月か前のものが、闇で売られていたのだ。従業員にたずねても、自分がやったと言う者はない。入れ替わりがけっこうあるので、退職者にも電話してみたが、やはり誰も知らないようだ。ハッカーの仕業だろうか。いずれにしても、店の評判にかかわる話なので、なんとかしたい。

 従業員に触らせないことも考えたが、店長である私がいない日にどうするかとか、込み入った設定をすると操作がむつかしいとか、いろいろあるので、この考えはやめておいた。結局、監視カメラ用のマイコンのあたりもカメラで監視することにした。経費がかかるので、パートの出勤数をその分減らし、食堂でも冷凍食品の割合を上げた。経営者は大変だ。


 その後しばらく、新しい流出の話はなかった。だが、客足は微妙に減ってきた。やはり噂が広がり始めたのではないか。そんな気がしてきた。そしてまた故障するカメラがあったので、業者に電話した。すると、お客様の都合によりとかどうとか言っている。まさかと思って、車を飛ばした。どうやら夜逃げしたようだった。

 次に見つけたのは、流出ものではなかった。脱衣場で、かばんの中のカメラから撮ったらしいものだった。私が見るからわかるだけで、素人にはどこで撮っても同じに見えそうな内容だった。だから、気にしないことにした。

 またしばらくすると、新しい流出ものが見つかった。どうやってもこうなるのだろうか。私は警察に相談することに決めた。店の評判が落ちるかも知れないが、このまま放って置けばどうにもならないからだ。

 警察は、話の筋がよくわからないようで、のらりくらりと被害届けを出させないようにする。これでは、どうしたらいいのだろう。そうだ、監視しよう。私は店の玄関と周囲に、監視カメラを増設することにした。違う業者を呼んで、頼んだ。顔認証とかいうやつで、出入りするすべての人を監視できるようになった。これなら、何かあっても犯人がわかる。ハイテクはすごい。


 これだけやれば、もう安心だ。そう思っていたら、次の流出があった。いったい誰がどうやっているのだろう。もうだめだ。いや、どうせなら、私が流出画像を売ればいい。どうせもうだめなら、最後に一稼ぎしよう。そう決めた。とりあえず画像を見て、使えるものを整理しよう。大変な仕事だが、どうせ客もパートも減っているので、隙くらいならあるだろう。いざとなれば誰もいない深夜にやればいい。私は、作業を始めた。


 その数日後、警官がやってきた。任意で話を聞くから同行しろと言っている。身に覚えはない。だが、警官たちは強気だ。


「おたくの本社、事務室に防犯カメラつけてんの。全部筒抜けなの。」

「あんた盗撮マニアでしょ。検索履歴もバレてんの。」

「前に業者の元バイトがいろいろ流出させたのは災難だったかも知れないけど、あんたも今は一緒だから。」

「言い訳は署でして。」


 私は事態を理解した。もう逃げ道はない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る