第6話 ユウキという救出者

宿代を払え終えた後、救出板の内容に暫し頭を痛めていたユウキだったが


「あー、くそっ!とりあえず今回の依頼の確認しないと」


今すべきことに思考を切り替える。

因みに突然悪態を吐きだしたユウキに対して、ちょっとこの人大丈夫?という視線を向けられていたのは無視した。


「えー、カリンさんたち?先ず最初に言っておくことがあるわ」


「……何でしょう?」


ユウキの言葉に微かに逡巡したものの、代表して魔術師のカリンが答える。

どうやらユウキが来るまでの6日間で、彼女がそういう役割を受け持つに至ったらしい。

MMOのプレイスタイルにもよるが、個々のコミュニケーション能力には差がある。

そうした中でまとめ役としてリーダーシップを発揮する者が現れるのは自然なことだった。

誰もしたがる人がいないから嫌々リーダーに任命されるケースもあるにはあるが。

とにかく、ユウキにとっては代表者がいるのは有難いことだったので、話を先に進める。


「今回の救出に関して、依頼者が貴女たちのお父上であるかどうかはまだ分からないわ」


「そんな!」


「まあ慌てないで。それを今から確認しようと思うから」


アキラの中途半端な情報のせいで、5人ものカリンがこの場に集ったのだ。

『カリン』というプレイヤーネームはありきたりなもので、最悪の場合、全員が依頼者とは無関係の場合も考えられた。

それを明確にするには


「ある程度の個人情報を開示してもらうのが一番手っ取り早いんだけど、異論がある人いる?あ、勿論私が知った情報は秘匿するわよ。守秘義務があるからね」


現実リアルの情報を教えてもらうのが一番簡単だ。

だが


「私は大丈夫です」

「うーん、まぁしゃあないか」

「……おっけ」


同意する者もいれば


「いやいやいやいや!もしパパが依頼者じゃなかったら、関係ないのに身バレするじゃん!そんなん絶対無理だって!」

「私も無理です。必ず脱出できるという保障もないのに教えることなんてできません」


拒否する者も出てくる。

現代社会において個人情報の取り扱いはデリケート故、仕方のないことかもしれない。

そもそもユウキ自身、まだ彼女たちの信頼を得られていない。

いやむしろ、救出板の件でマイナス方向ですらある。

ならばどうやって解決するか。


「大したことは聞かないから、そんなに警戒しなくたって大丈夫よ。私が教えて欲しいのは、貴女たちのお父さんの下の名前と職業。流石に依頼者の名前は知ってるからね。それだけ教えてくれれば十分よ」


相手が教えても問題ないと思える程度の情報を得ればよい。

当人以外の情報であれば尚良い。

結果


「ま、まぁそれぐらいなら?大丈夫?なのかな」

「……その程度なら、私も異存ありません」


最初は拒否した2人からも了承を得ることができた。

実のところ救出者であるユウキにとって、『その程度』の情報があれば個人を特定することは可能だが、それを教える必要はないため黙っていた。

そして5人の父の名前と職業を確認した結果


「うん。依頼者は貴女のお父さんよ。魔術師のカリンさん」


この中に依頼者はいないという最悪の事態は無事避けられた。

内心ホッとするユウキ。

救出対象も、父親の職業が影響したのかしっかり者のリーダータイプ。

その事もプラス要素だ。


「じゃあ依頼者も判明したことだし、脱出までの話を詰めていきましょうか」


「ちょ、ちょっと待ってよ!じゃああたしたちはどうなるの!?」


残る4人からすれば、依頼者は自分の家族ではなかった。

つまり、救出されるのは自分ではない。

だからつい


「救出板にあんな書き方するのが悪いんだから、責任取ってあたしたちも助けなさいよっ!!」


そんなことを言ってしまった。

無理を言ってるのは自分でも分かっている。

けれど、僅かとはいえ一度希望が見えてしまったことでより不安は強くなり、感情を制御するのが彼女には困難だった。

だからこそ


「いいわよ」


「…………へ?」


ユウキの言葉は以外で


「ついでと言っては何だけど、パーティーを組んでる人がいるならその人たちもまとめて面倒見ましょう。パーティーじゃなくても、生産職の人でお世話になった人とかでもいいわよ。ただし上限は100人だけどね」


その言葉はもっと以外で


「ほ、ホントに?」


信じられず聞き返してしまう。


「勿論。あんまり救出者サルベージャー舐めないでもらえるかしら?私たちにとっては1人助けるのも、5人助けるのも、100人助けるのも一緒なんだから」


この悪夢のようなゲームから脱出できる。

まるで決定事項のようにそう告げるユウキに、只々少女は目を見張る。


「他の人もそれでいいわね?じゃあ今後の話をするわよ」


依頼対象以外も助ける、と当然のように言い放つユウキの姿は


「か、カッコいい」


とある少女にはとても眩く見えた。

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