第4話 支援者
「あいよ。これで全部だ」
ユウキが山田から受け取ったのは、各種高品質な装備に始まりポーションなどの消耗品やマジックアイテムなど、始まりの町というには過ぎた品ばかりだった。
「ありがと。いつも助かるよ」
「なぁに、お易い御用ってもんよ」
山田がしているのは、MMOではよくある倉庫屋だ。
「3LO」も例に漏れず、アイテム倉庫のシステムが存在している。
だが、山田があえて倉庫屋をしているのには当然ながら理由があった。
それはクリア者、つまり救出者が再ログイン時に速やかに攻略に取り掛かれるようにすること。
倉庫システムがあるなら、そちらを使えばよいのではないか?という疑問を持つのは自然なことだが、これはユウキが「弱くてニューゲーム」を選択したことに起因している。
「3LO」の仕様では、「強くてニューゲーム」を選択すればクリア時のデータを引き継げるが、「弱くてニューゲーム」の場合は一切のデータを引き継ぐことができない。
レベルやスキルだけでなくアイテムも何もかもだ。
結果、「弱くてニューゲーム」を選んだユウキは、レベル1の初期装備状態からゲーム開始となる。
本来なら「強くてニューゲーム」を選べばいいだけの話なのだが、そこには大きなデメリットが存在した。
故に、どこの国であっても救出者は「弱くてニューゲーム」を選ぶよう推奨されている。
この不利を補うためにプレイヤー達が考えたのが、倉庫がダメならプレイヤーに預けちゃえばいいじゃない、というものだった。
これならシステムの影響を受けることなく、最序盤から攻略に役立つアイテムを入手することができる。
レベルやスキルは鍛えなおす必要があっても、一から攻略するのに比べれば効率は段違い。
より早い攻略に役立つというわけだ。
それに別の需要もあった。
「俺はもう残機1しかねぇからこんなことしかできねぇが、ユウキちゃんたちはそうじゃねぇ。なら、ちっとは救出者の助けになんねぇとな」
山田のように残機が減り前線に出るのが難しい者や、そもそもゲームが得意ではなく攻略できない者、リアルさながらの戦闘に恐怖する者など、自力クリアできない者が一定数存在する。
そういうプレイヤーが助かるにはどうすればよいか?
救出者のクランに入ること、それが一番の近道だ。
そこで生まれたのが、山田のような
救出者はゲーム開始時に絶大な恩恵を受ける、一方で支援者は見返りとして救出者のクランに入る。
勿論、クラン入りするにはある程度順番待ちが発生するが、危険を冒さずにゲームから脱出できる。
加えて、プレイヤーたちのモチベーションを維持するのにも、この支援者制度は役立っていた。
支援者として協力すればいつかは脱出できるという希望を持たせると共に、自分もクリアに貢献しているという自尊心へと繋がる。
支援者という
だからと言って、全ての支援者が全面的に協力しているわけではないのだが。
「みんながみんなおっちゃんみたいに考えてくれたらいいんだけどね」
「ま、仕方あるめぇ。それぞれ事情もあるだろうしな」
「……そうだね」
支援者の実情を考えつい愚痴ってしまったユウキだったが、年長者の言葉に思い直す。
自分は人の心が読めるわけでも、相手の事情を全部知っているわけでもない。
なら、ユウキがすべきことはここで管をまくことではないはずだ。
「じゃ、そろそろ行くね。愚痴っちゃってゴメン」
「気にすんな。そんな時もあらぁな」
「行ってきます!」
「気を付けてな」
「うん」
先ずは首都に向かいつつレベリング。
予定日までになんとしても首都に到着せねばならない。
決意を新たにスモールヒルを出発したユウキは
「あ、おっちゃん。さっきの初心者狩りの3人組だけど、後の処理ヨロシク」
「お、おお」
30分もせずに引き返し、山田に新たな依頼を言づけるのだった。
流石に24度目のログインともなれば、オイシイ狩場は粗方把握している。
ゲーム内で2日が過ぎる頃には、ユウキのレベルは42にまで到達していた。
「さってと、とりあえず今はこんなもんかな。あんまり上げ過ぎると後がしんどいしね」
レベリングを切り上げたユウキは残り時間を確認し
「残り約4日か。んじゃあ、お次は進行度の確認といきますか」
次のステップへと進むのだった。
その頃現実では。
「さぁて、
唯一外部から「3LO」内部へと連絡できる手段、
というのも
「中から返信できないんじゃ、外の僕らには全然わかんないのがなぁ」
救出板は外部からの情報をプレイヤーに伝えることはできても、プレイヤーからゲーム外へ連絡することはできないのだ。
一方通行のシステムに、何度もぶつけた不満を溢すアキラ。
それでもゲーム内に閉じ込められた者たちからすれば、外部の情報を知ることができる貴重な情報源だ。
それゆえ、プレイヤーたちは救出板の情報を得ようと首都に集まる。
救出板は首都にしかないからだ。
ユウキが楠の依頼を受ける際に、救出板を利用するのを取り決めたのもこうした理由からだった。
「で、何て載せたの?」
アキラにそう問いかけたのは、先ほどまでユウキの世話をしていた姉の恭子だ。
ログイン状態が続くユウキが生きるためには適切な医療処置が必要であり、それを行うのが医師でもある恭子の役割だった。
「いつもどおりさ。現実世界で3日、3LOでは6日以内に、救助対象が僕の書き込みに気付いたら指定の宿で宿泊するように指示しただけ」
「ならそれでいいじゃない」
「そうなんだけど、他にすることがないのが歯痒いというかなんというか」
「じゃあ、ユウキちゃんと一緒にログインすれば良かったじゃない」
「……姉さん、分かってて言ってるだろ」
「さあ、何のことかしら?」
「僕が行ったってユウキの足手まといにしかならないよ」
「そう思うなら
「うぐぐぐぐ」
姉の正論に返すこともできず項垂れるアキラ。
「はあ……分かったよ。
「じゃあ早速だけど、これお願いね」
そう言って恭子は携帯端末をアキラへ手渡す。
「何これ?」
「実はさっきから楠議員からの電話が鳴り止まなくてね」
「へっ?」
「娘はどうなってる?救出はまだか?って何度もうるさくて、お姉ちゃん困ってたのよ。アキラ君、後はよろしく」
一方的にそう告げた恭子は、逃げるようにユウキの元へ去るのだった。
その後、あまりにもしつこい楠にアキラがブチ切れるまで電話は鳴り続けた。
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