第3話 始まりの町

「到着っと、周りは……まぁいつもと変わんないか」


弱くてニューゲームを選んだ後、キャラメイクを終えたユウキが降り立ったのは日本サーバーの始まりの町スモールヒルだ。

「3 LIFE ONLINE」略して「3LO」と呼ばれるこのゲームは世界中にプレイヤーがいるのだが、ある程度の地域単位でスタート時の場所が異なる仕様となっている。

スタート地点は全部で28にも分かれており、所属するゲーム内国家もそれぞれ異なる。

日本の場合だと、ユウキが降り立ったヒノン皇国のスモールヒルといった具合だ。

これがアメリカとかだと、インディ帝国のアークタウンになるらしい。

らしいというのは、世間一般ではそういう情報が流れているが、ユウキ自身はインディ帝国に行ったことがなく、アークタウンなる場所が実在するか知らないからだ。

勿論ゲーム内で他国に渡ることは可能なのだが、その必要性は殆どない。

というか、あまり現実的でないのだ。

なぜなら、各国が現実世界並みと言えそうなほど広大な領地を抱えており、自分の所属する国を横断するだけでかなりの日数がかかる。

加えて、ゲームクリアの対象となるボスは、国に別々に存在している。

自国にラスボスがいるのに、わざわざ苦労して他国のラスボスを倒しに行くような変わり者はいなかった。


「さぁて、それじゃあまずは……」


いつもどおり、の手順を踏もうとしたユウキだったがその行く手を遮る影が3つ。


「おいおい姉ちゃん、今頃ログインするなんてよっぽどの死にたがりか?ああ?」


「自殺志願者だってんなら、俺たちとイイコトしようぜ?きっともっと生きたくなる、いや、イきたくなるからよ。ヒャハ!」


「俺たちが天国へ連れて行ってやんよ。ゲヘヘ」


如何にもな小物臭漂う3人組だが、これはアレだ。

典型的な初心者狩りというやつだ。

ユウキの装備がログイン直後のものだと判断し、その体を舐めるようにジロジロ見回している。

「3LO」のキャラメイクは体格や種族、職業などをある程度選択できる一方で、性別と顔を偽ることはできない。

それをいいことに、この3人組は初心者相手に散々遊んできたのだろう。

元のゲーム(「3LO」のベータ版)の時から、このゲームはオープンワールド型VRMMOで、何をするもプレイヤーの自由だ。

クリアを真面目に目指す者もいれば、戦うのを嫌い生産職になる者もいる。

一方で、プレイヤーキラーやこういう迷惑な輩も後を絶たないわけだが、現実世界でその所業を知る者はいないため、罪に問うことはなかなかできなかった。

「3LO」問題が齎した闇は、ログインしなかった者が知るより深いのかもしれない。


「はあ、アンタたちねぇ。クリアを諦めるのは仕方ないとして、人様の足を引っ張るのは感心しないわよ?」


尤も、今のユウキには関係なかった。

自分が今すべきことは楠の依頼を達成することで、この3人組を救出することではないのだから。


「お?一丁前にクリアするつもりみたいだぞ、この姉ちゃん」


「ギャハハハハ、マジかよ?そいつはスゲェ。じゃあ俺たちも一緒にクリアさせてもらおうぜ!できるもんならよ」


「そいつは良いねぇ。でもその前に、俺たちと遊んでこうぜ?ちょっとぐらい遊んでからでも遅くないって」


「私、急いでるから。これ以上邪魔するなら痛い目見るよ?」


「ああっ!?人が優しくしてりゃ付け上がりやがって!舐めてんじゃねぇぞ!」


「そうだそうだ!レベル1の癖に生意気なんだよ!」


「ゲヘ、こうなったら、身体で分からせてやるしかないなぁ」


警告を発するユウキに対し、激昂する2人と興奮する1人。


「こんな所で時間をロスしてる場合じゃないのに……アンタたち、警告はしたからね?」


ユウキのそのセリフを最後に


「やっちまぇ!」


「おう!」


男たちが襲い掛かった。

のだが、既に目の前にユウキの姿は見当たらない。

なぜ?どこに行った?

3人はその答えを知ることなく、残機を1つ減らしリスポーンすることになる。


「レベル1でも、相手が人間なら急所を突けば簡単に殺せるのよ。覚えておきなさい、ってもう聞こえてないか」


初期装備のナイフ片手に、そう呟いたユウキが振り返ることはなかった。

その場に残されたのは、3人分の血の跡と、ナイフに付いた血を振り払った跡だけだった。






「あー、余計な時間食っちゃったわ」


なんなく初心者狩りを撃退したユウキは、一路首都を目指していた。

わけではなく、始まりの町スモールヒルの道具屋に来ていた。


「おっちゃーん、いつもの装備ヨロシク」


「あいよ、って血だらけじゃないか!大丈夫かユウキちゃん!?」


「ダイジョブダイジョブ、これ返り血だから。どっかの馬鹿がログイン直後に絡んで来てさー。いや、ホント参ったよ」


「初心者狩りか。ったく、何考えてやがんだか。そんな暇があるんなら、ちっとはレベル上げでもしやがれってんだ!」


「激しく同意」


「つっても、ここで道具屋してる俺が言うのもなんだけどな」


ユウキと親しげに話すのは、NPCではなくプレイヤーの一人だ。

名を山田和夫といい、ユウキと同じ最初期からのプレイヤーでもある。

歳は50を越え、一見VRMMOをするようには見えないのだが、ユウキを含め数多くのプレイヤーから頼られている存在でもあった。


「何言ってんの、おっちゃん。おっちゃんのお陰で私らはクリア代行なんてできてんだよ。いつもありがと」


「おうよ。ユウキちゃんにそう言ってもらえるだけで、此処に残った甲斐があるってもんよ!」


「それなんだけど……おっちゃん、そろそろ現実リアルに戻らない?私とパーティかクランを組めば絶対帰れるようにするから」


「そう言ってくれんのはありがてぇんだが、まだまだ取り残されてる若ぇ奴は多いんだろ?」


「……うん」


「なら、老い先短いこんなおっさんより、そいつらを先に助けてやんな。なぁに、どうせ現実に戻っても独り身の俺だぁ。急いで帰る必要もねぇってもんよ」


「……おっちゃん」


「それに、此処でアイテム管理とゲーム内の監視をする奴もはずせねぇだろ?」


「それは、そうだけど」


「ま、適材適所って奴よ。つーわけだから、そんな辛そうな顔すんな。俺はユウキちゃんの笑顔があれば100万馬力!なんつってな」


「もう、何よそれ」


「ありゃ、これじゃユウキちゃんは口説けなかったか。おっさん失敗失敗」


「私はそんなに軽い女じゃないんだからね」


「そうでした」


「「あはははは」」


お道化た山田の態度に二人とも同時に笑い出す。

VRMMOそこにはお互いを気遣い合う関係が間違いなくあった。

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