第5話 弾けて、ヤツは、どこ行った
ゴールデンウィーク間近、私はこの長い休暇をどう過ごそうかと安アパートで一人思案にふけっていました。
そんな時に未確認生物発見同好会のリーダーだった浩二から「直樹、暇だろ、とにかく会わないか?」とラインが入りました。
久し振り、しかしこんな性急な誘いは、多分パンダ猫に勝る生物の捜索に付き合えということでしょう。
だがこれで休みが埋まるかなと、OKと返しました。
翌日居酒屋で、貧乏独身ながら逞しく生き延びてきたことに、まずはカンパ~イ!
そして近況報告をし、唐揚げが出て来たところで、私は本題「狙ってる未確認生物は?」と切り込みました。
すると浩二は「後輩のダサオを覚えてるだろ」と。
その
それよりその唐揚げ俺のだと睨み付けると、浩二は「何があったんだとダサオに訊くと、どや顔で、『弾けて、ヤツは、どこ行った』のお陰ですってね」と真顔で続けました。
私は飲み込めません、「弾けて、なんじゃらって?」と問うと、浩二は「未確認生物だよ。どうも権太山にいるらしいぞ。だからこれ、お前にやるよ」と私の皿に唐揚げを落としてくれました。
私はここで読めました。
「この1個の唐揚げと俺の休暇と引き換えってことだな、しゃあねえなあ、ダサオを垢抜けさせたという生物『弾けて、ヤツは、どこ行った』の探索に付き合ってやるよ」と渋々の表情で了解しました。
5月初旬、雑木の勢いはすでに強く、奥地へのアタックは並大抵なことではありません。
されども浩二は手慣れたもの、ナタ一本で道を切り開き、前進に前進。私はただ付いて行くだけ。
そして2時間後、いかにも大岩魚が潜んでそうな渓流へと出ました。
私は浩二の頑張りに気を遣い、「一休みしないか」と声を掛けました。
だが浩二は「あっそこ」と震える指で差します。そこへと焦点を合わせますと……、ビ・ツ・ク・リ! でありやんした。
50センチ位の半透明の球体がふんわかふんわかと浮遊しているではありませんか。
私には目眩が。
されどさすが元リーダー、即座に驚愕から蘇生し、「腹減ったよな、あれ食えるかも」と食欲モロ出し状態に。
あとはまるで狼の如くひょいと岩へとジャンプし、突進。
その瞬間でした、気配を感じた球体が一斉にパッチンパッチンと弾けたのです。
されど真にド肝を抜かれたのはこの後でした。ちっちゃな人のような生物が出現したのです。
浩二の目は点に、私の心臓は止まりかけました。
そんな人生最大の唖然呆然の間にヤツらは素早く山奥へと消えて行きました。
数分後やっと動揺が収まり、「お~い、弾けて、ヤツは、どこ行った」と声を上げ、追い掛けました。そして遭遇したのです。
山中に野原があり、結論から申し上げますと、メタリックに輝く空飛ぶ円盤がそこに鎮座してたのです。
こんな展開になると反対に肝が据わりますよね。
浩二が進み出て、「食べはしません」と宣言すると、機長が現れました。
「我々は弾け人、知能が今一つの人間を調べに来た」と自己紹介してくれました。
あとは、これも多生の縁と機内へと招かれ、飲めや歌えの大親睦会でした。
数時間後やっとお開きに。
そして「貴君たちの人生が潤うよう、球体一体ずつお持ち帰りください」と。
この薦めに私がポカンとしていると、機長は「直樹君は勤務態度がタラタラですね、だから球体『弾けて、課長、どこ行った』をどうぞ」と仰られました。
課長なんて嫌だ、されど無碍に断るのも失礼、ここは喜んでと頭を下げました。
そんな時、浩二は「俺には、そう、ダサオが持ち帰ったと思われる、『弾けて、お姉さん、どこ行った』をお願いします」と申し出たのです。
これに機長はきりりと恐い顔となり、「君は未だに無職、強い指導が必要です。よって『弾けて、おとん、どこ行った』にします。さもなくば強制連行で、宇宙生物職業訓練所へと送ります」と。
これに浩二は「おとんで、ヨロチク」と無念の涙が一筋……、てなてな具合でした。
部屋へと連れ帰った球体ですが、いつもフワリフワリと浮遊していました。
だけど私の起床とともにパチンと弾け、ちっちゃな人型生物『弾けて、課長、どこ行った』が現れました。
あとは、挨拶は大きな声で、会議では3回以上発言せよ、有り難うを忘れるな等々の日替わり出勤前指導、実に鬱陶しい。
だけど不思議です、守ってみると、業務評価は徐々に上がり、結果は昇格昇給。
ヨッシャ、このままずっと一緒に暮らして行こうと決断した朝のことでした、大きくパッチンと弾け、課長はどこかへ消えて行ってしまいました。
浩二に連絡すると、おとんも消えた、だが定職に就けたとか。
という顛末でしたが、私は叫びたいです、世間では未確認のエイリアン『弾けて、ヤツは、どこ行った』に愛を込めて――、また会おうぜ!
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