13.使い魔と新設クラス
キキキッ!キキキッ!
「……ん?何の音……?」
突然甲高い音が耳元で鳴り、その不気味な音で目が覚める。
まだ少し寝ぼけていて状況がよくわかっていないが、目の前を飛び回っている真っ黒い生き物が、まるで呑気に寝ている自分を必死に起こすかのように鳴き続けている。
その真っ黒い生き物は尖った耳を持ち、薄い翼を細かく羽ばたかせ、2つの赤い目を怪しげに光らせてこちらをじっと見つめていた。
「……コウモリ?なんで、こんな所にコウモリが?」
気がつくと、もう1匹違うコウモリがファイの目の前を飛んでいるコウモリと同じ高さを維持しながら飛んでいた。
「もしかして、スティーリア先生が言ってた使い魔?……ウィン、どうやらクラスが決まっ………なっ!?」
さっきまで一緒にいて隣に座っているだろうウィンの方へと顔を向けたその時、ファイは目の前にコウモリが現れた事よりも驚いていた。
なぜなら、ウィンがファイの肩に寄りかかり寝ていたのであった。それにより、そちらに顔を向けた時にウィンの寝顔や綺麗な緑色の髪がとても近くにあり、その髪を洗うのに使ったであろうシャンプーのいい香りで、ファイの心臓の鼓動は周りに音が聞こえるんじゃないか思うほど大きく、そして物凄い速さで脈打っていた。
「……ウィンも寝ちゃってたのか。ウィン、起きて!」
「……ん〜?……ふあぁ〜〜。……あれ、あたし寝ちゃってた?」
「うん。と言っても、俺もさっきまで寝てたんだけどね」
「……んん?ファイ、なんか顔赤いけど大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ!そんな事より、使い魔が来てるから早くクラスに向かおう!」
「使い魔……?あ、このコウモリかー。でも、どうやってクラス教えてくれるんだろ?」
2人がベンチから立ち上がると、2匹のコウモリが中庭の入り口まで飛んでいき、そこで一定の高さを維持して滞空する様は、まるでついて来いと言わんばかりであった。
「行ってみよう」
「うん!」
コウモリのあとをついて行くと、手前から順番に1-1から1-7までの室名札がずらりと並ぶ長い廊下へと辿り着く。その中にはファイ達が待機場所として使用していた1-3の教室もあった。
すると、2匹のコウモリが今度はゆっくりと廊下を飛び進んでいく。ファイ達はまたそのあとをついて行くと、1-1、1-2、1-3と教室の前を次々と通り過ぎて行った。
そして、突然ある教室の前で滞空したのであった。それも、2匹同時にである。
「1-7?……2匹が同じ場所で止まったってことは」
「あたし達、同じクラスってことじゃん!改めてこれから、よろしくね♪」
「うん、こちらこそよろしく。とりあえず入ろうか」
コウモリに
その2人はこの教室の新たな来客に一瞬こそこちらを見たが、興味がないのかすぐに正面を向いて黒板を眺めたり、目を瞑ったりしてしまった。
「あれ、この教室なんかおかしい……」
「ん?何が?」
「……"全員"揃ったな。とりあえず、2人とも空いてる席についてくれ」
いつ間にかファイ達の後ろに1人の男性が立っていた。2人はいきなり背後に現れた男に驚いたが、その男に言われた通り空いている席へと向かい腰を下ろした。
「まずは自己紹介でもしょうか。俺はこのクラスの担任になった"レイヴン"だ。よろしく頼む」
"レイヴン"と名乗るその男は、今まで寝ていたんじゃないかと思うほど寝癖だらけの真っ黒の髪に、その髪と同じくらい真っ黒なコートを着ており、そのコートの袖や裾など数カ所に銀の装飾があった。コートの中は落ち着いた青紫のシャツに黒いベストを着ていてまるでこれからディナーにでも行くかのような大人な服装である。
「まず、お前たちにある選択をしてもらう」
「……ある選択?」
「そうだな、その前に少し説明しないといけないな。この7組はある目的のために、今年新設された特別なクラスだ」
レイヴンは、まるでこれから授業をするかのように教卓の周りをゆっくりと歩き始めた。
「お前たちも、5大英雄については知っているだろう?」
「この国の伝説の英雄ですからね、知らない人なんていないでしょう」
「それもそうだな。まぁ、伝説と言ってもたった15年前の話なんだがな」
「その5大英雄がどうしたんですか?」
「俺のクラスに選ばれたお前たちには、新たな英雄になってもらう!」
「なっ!?」
「え、英雄……?」
「……正気なのか?」
「……………」
レイヴンが言った言葉に4人中3人が驚いていた。当然である、会って間もない人からいきなり"英雄になってもらう"なんて言われたら当然の反応なのだから。
「新たな英雄になる者を育てる、それがこのクラスが作られた理由だ」
「……なぜ、新たな英雄が必要なんですか?15年前に起きた魔族侵攻で魔族は滅んだはずじゃ」
「別な脅威が現れないとも限らない。それに、魔族だって本当に滅んだと言う保証だってない」
「そんな……」
「しかも、5大英雄も3人は行方不明、1人は死んでしまって、残っているのは1人だけだ。だからこそ、新たな英雄が必要なんだ」
「………………」
「とは言え、無理強いはしない。だからお前たちに選択してもらいたい」
「…….選択って、一体何を?」
「"このクラスに残り英雄となる"か、"他のクラスへ行き普通の学園生活を送る"かだ。英雄なんて興味がなんて者が居れば、今ならば他のクラスに編入させてやることも可能だ」
「………………」
ファイ達4人はレイヴンから迫られた選択にとても悩んでいた。英雄が必要なのは真実なのかも知れないが、なぜ自分たちなのか、自分たちが英雄になれるのか、別の脅威などいるのか、本当に魔族が滅んでいないのかなど様々な考えが頭の中を駆け巡っていく。
突然、椅子を引きずるような音とほぼ同時に机から立ち上がる者が居た。
英雄なんて馬鹿らしいからこのクラスから出て行こうとしているのかと男は思っていた。
しかし違った。なぜなら、その者の眼にはやる気が溢れていたからだ。
「ファイ・フレイマー。俺の夢は父さんのような立派な騎士になることだ。それには、このクラスが1番確実な道だと思うから……だから俺はこのクラスに残る!よろしくお願いします!」
ファイの自己紹介とこのクラスに残る決意表明を述べたほんの少しあとに、別の椅子を引く音が聞こえてきた。その音の方を向くとある少女が立ち上がっていた。
茶色のショートの髪に白いベレー帽をかぶった少女。瞳は髪と同じ茶色で、白いシンプルなデザインのワンピースに黄色のカーディガンを羽織っているのがとても可愛らしく見える。
「……クラン・グランディール。わたしもこのクラスに残る。……理由は特にない。……よろしく」
「あ、あたしも!えっと、ウィンディ・スカイレーサー!英雄になるとかまだよくわかんないけど、でもどうせだったらやり甲斐があるほうが楽しそうだし!みんな、よろしくね♪」
「はぁ……フリッド・グラース。正直言って英雄に興味はありませんが、このクラスから得られるものがありそうなので僕も残ります。……以上です」
フリッドと名乗った少年は、言い終わるとスムーズな動作で自身がかけている眼鏡を右手の中指で少し上げ、位置を直したのであった。
全員分の自己紹介などを聞きていたレイヴンはゆっくりと教卓へ両手をつくと、不敵な笑みを浮かべてそう言った。
「ようこそ、俺の
そうこれが、俺たちの
〜秘めし小火の旅立ち編〜完
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