第2話 突然現れた婚約者
ルナードは、ややしばらく言葉の意味を考えていた。
そもそも神官は、神託が降りた時にその者と結婚する仕来りがあった。つまり神が決めた相手と結婚する。と昔は言われていた。だが実際は、精霊が見える相手を選んでいただけだ。なので、全員結婚している訳ではなかった。今は、神官長が決めた者とする事もある。だからマカリーが紹介するのはわかる。
だがルナードは、本当は女性だ。それをマカリーは知っている。結婚など出来るわけがない。
「御冗談でしょう。私は、ついこないだ神官になったばかりですよ」
つとめて平静を装い返す。
「冗談ではない。神託が降りた」
マカリーの言葉に、ルナードは一瞬顔が引きつった。ルナードは、神託などないことを知っているからだ。
”何が神託だ”
そう内心は思うも静かに返す。
「そうですか。でも、宜しいのですか? その方は、見た目麗しい。私には、過ぎた方かと思いますが」
「色々あってな。彼女は、口がきけない」
「……言葉が話せないという事ですか?」
そうだとマカリーは頷く。
はぁっと、盛大なため息をつくとルナードは、スタスタと歩き出す。
「どうなっても知りませんよ?」
そう一言捨て台詞を置いて、ルナードは自分の部屋に向かった。
ディアルディは、その姿を顔色一つ変えずにずっと見つめている。
「すまないなディ。ルナードは、この通り女性に興味が無い。あなたにはうってつけだろう?」
ディアルディは、否定も肯定せずルナードが過ぎ去った廊下を見ていた。
「ご、ごめんなさいね。愛想がなくて。ちょっと失礼しますね」
母親のラルーが慌てて、ルナードを追いかけて行った。
□
ルナードは、パタンとドアを閉めた。
「なんなんだ一体……。婚約者? 意味がわかんない!」
トントントン。
「ルナード。ちょっといい?」
「どうぞ」
「入るわよ」
「何?」
ムッとしているルナードに、ラルーが頭を下げた。
「お願い婚約して」
「はぁ? 何言っているかわかってる?」
「あの子は、男性嫌いらしいの。体に傷もあるらしく、嫁のもらいてもなく18歳になって、このままだと第二婦人に出されるのよ」
「知るかよ……」
ルナードは、フンとそっぽを向いた。
大抵の女性は、18歳頃までに婚約する。それまでに婚約出来なかった者は、第二婦人になるしかない。
第二婦人とは、結婚したが子が出来ない家系の子を産むだけに妻になる。衣食住は提供されるが、自由はない身分になる。
この国では、女性は結婚出来ないと暮らしていけないのだ。どうしても第二婦人になりたくなければ、国を出るしかない。
「あなたにとっていい事よ。あなただって、将来的には結婚をしなくてはならないでしょう?」
「神官だからしなくてもすむだろう?」
「そうはいかないわ。神官長の孫なのよ? いっぱい婚約候補がいるのよ。彼女を娶って、子が出来なければ第二婦人を……」
「誰の子を産ませるの? いつまで意味がない事をする気だ? ディ……なんだっけ? その女性にも失礼だろう?」
「彼女もそれを望んでいるの。体の関係はなしでいいって」
「……出て行け」
「ルナード……」
「出て行けと言っている。吹き飛ばされたいか?」
ルナードは、母親のラルーをギロリと睨むと、彼女はビクッと体を震わす。そしてこくりと頷くと部屋を出て行った。
「ふん。内心魔女だと恐怖しているくせに」
憎々し気にルナードは呟いた。
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