第1話 神官様
「神官様が言った通り、雨が降り出しましたわ」
「洗濯物は大丈夫ですか?」
「はい」
少女は頬を染め頷く。髪よりやや濃い紫の神官の制服を着たルナードがほほ笑めば、少女達はいちころだ。
この世界の神官には、特別な力があると言われている。
しかし神官は本来、男性がなるもので、ルナードは女性だ。そして、女性に特別な力ある場合は魔女と呼ばれた。
魔女――それは、不吉なる邪なる者として、生まれると直ぐに処刑される。本来ならルナードもそうなるはずだった。だが、ルナードの家族は、性別を偽り男性としてルナードを育てたのだ。
今や、立派な神官になった。
「ルナード」
「……マカリー様」
この神殿で一番偉い人物。そして、ルナードの祖父が呼び止めた。
ルナード同様に濃い紫色だっただろう髪は白髪だが、神官としては一目置かれている。それは、特別な力が本当に使えるからだ。
今や神官に備わっていると言われる特別な能力を持つ者は少ない。なので祈りを捧げ仕える事を約束すれば、誰でも神官になれるようになった。
「何か御用ですか?」
「今日は、まっすぐ帰って来るように。会わせたい人物がいる。よいな」
「はい。わかりました」
ルナードは頷く。
「よう。ルナード」
マカリーが去り違う人物に声を掛けられ振り向いたルナードは、軽くため息をついた。
「ダンザルさんか。何かようか?」
「今日、飲みに行かないか?」
「行きません。マカリー様に直帰するように言われました」
「ふーん。今日もお祝いしてくれるって言ってくれたんだけどなぁ~」
「一度すれば十分だろう」
そう言って、ルナードはスタスタと歩く。
「この堅物~」
ダンザルが叫んでいるが、ルナードは無視した。彼とルナードは、先日見習いから神官になったばかりだ。
ルナードは16歳。ダンザルは18歳。大抵は、18歳で神官になる。なのでルナードは、マカリーの孫だから優遇されていると陰口を叩かれていた。だが実際は、マカリー同様、本当に特別な力があったからだ。
しかし神官内では今やその力はない事が普通なので、ルナードの本来の力は上層部の者しか知らないのだった。
『ねえ、機嫌悪い?』
「うん? いや。あいつうざいからさ」
ルナードはボソッと呟く。だが、ルナードの周りには誰もいない。いるのは、宙に浮いた可憐な少女。小さな綺麗な羽根をパタパタと動かし、ルナードの周りを飛び回っている。
大きさは、手のひらサイズ。しかもこの可憐な少女は、特別な力を持った者にしか見えない。そう精霊だ。
特別な力の正体は、精霊だった。
□
「ただいま帰りました」
ルナードは言われた通り真っ直ぐ家に帰ると、見知らぬ女性がいた。
ストレートの黒髪が胸まであり、凛とした女性だ。少し驚いていたルナードは、彼女が立ち上がって礼をした時、さらに驚いた。
彼女は、180センチ以上の背丈があったのだ。ルナードは、女性にしては高い方だ。173センチある。だが、それより高かったのだ。
「彼女は、ディアルディと言う。お前の婚約者だ」
驚いているルナードに、信じられない言葉をマカリーは放ったのだった――。
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