第7話 僕の寿命がこんなに短いわけがない。 その④
「あ、でも、よく考えたら人にパンツを渡すのも十分に変態的な行為だよね。もちろん誰かに見せようとするのも変態のすることだ」
「うっ……」
ミアの表情が固まる。
「ミアって、変態だったんだ」
「ち、違うもん!」
頬を赤くしたミアが、必死に両手を振る。
「変態」
「違う!」
「変態」
「違うってば!」
「
「ますます違うわ!」
「
「勝手に飽きないでよ!」
「オタマジャクシがカエルになるようなこと」
「変態!」
「ほら、変態じゃないか」
「違うって言ってるじゃない!」
「いいからパンツ見せろよ!」
「やっぱり見たいの!?」
「いや、別に」
「どっちなのよ……」
「じゃあ、こうしよう」
僕は人差し指を天井に向けた。
「僕はミアの言うことを一つ聞いてあげよう。その代わり、やって欲しいことがある」
「やって欲しいこと?」
ミアが警戒の眼差しを僕に向ける。
「うん。簡単なことだよ。四つん這いになった状態でその場で三回まわって、僕に向かってわんって言ってほしいんだ」
「……それで、私の言うことを一つ聞いてくれるの?」
「そうだよ」
「ふーん」
ミアは冷めた目で僕を見た後、四つん這いになった状態で三回まわった。
そして、
「わん」
と、真顔で言った。
眉一つ動かさず。
冷めきった目で。
……なんか、思ってたのと違う。
いまいち萌えないんですけど。
「はい、えーくん。次はあなたが私の言うことを聞いてくれる番ね」
立ち上がり、ミアが言う。
「ちょっと待って、なんか想像してたのと違うんだけど」
「どうして? ちゃんと言われたことはやってあげたはずよ」
「いや、それはそうなんだけど、でもそうじゃなくない?」
「何が?」
有無を言わさぬ迫力を醸し出す、ミアの笑顔。
僕は背筋が凍った。
「……なんでもないです……」
「それじゃあ、えーくん。早速だけど【
「え、なんだって?」
「だから、【
な、何ィィッ!?
【
「い、いくらなんでもミアさん、それは無理です。ハードすぎます。僕、死んじゃいます」
「えーくんは死んでも大丈夫なんでしょ?」
「そりゃそうだけど、それはまた別の話だよ!」
「じゃあ、仕方ないわね」
本当に、心の底から残念そうに、ミアはため息をついた。
「代わりに、どうやってあの男を倒したのか教えてくれれればいいわ」
「あの男?」
「そう。私たちを尾行してたあの男よ」
……?
…………あっ。
思い出した。
あいつね。
なんか倒したのが何日も前な気がする。
多分気のせいだけど。
「いいよ。簡単な話だ。僕があいつの能力を使ってあいつを倒した。どうやら僕の【
気が付いたのは、僕がナイフを投げた時だ。
ナイフは、敵を追尾するように飛んで行った。
以前僕が戦った人が持っていた、【
だから僕は、今まで僕を殺したことのあるスキルが、僕にも使えるようになってるんじゃないかって思ったわけだ。
「そういう、ことなの……」
「どうしたのミア? なんか浮かない顔だね」
「私、えーくんが心配だわ」
ミアは僕の顔を真正面から見つめながら、言った。
「心配? 僕が?」
「えーくんはもう、人の何百倍も死んでる。それはステータスを見れば分かるわ。だけど、もしスキルが発動しなかったらどうするの?」
「その時は、本当に死ぬだけさ」
「えーくんが
「五人も殺させといてよく言うよ」
「じゃあえーくんは、私が死んだっていいの?」
いや、それは話が違う。
……あれ? 違うのか?
言われてみれば確かに、わざわざ僕を殺しに来たあの男や、ムカつく同級生たちと違って、ミアには死んで欲しくない。
どうしてだろう?
僕に食べ物と寝る場所を提供してくれるのが、ミアだからかもしれない。
「ミアが死ぬと、
「だったら、私の心配も分かってくれる?」
「分からなくはないよ。だけどさ、敵を倒すには僕が傷つくしかないだろ?」
「そう、そこよ」
「どこ?」
「あのね、えーくん。少し休憩しましょう」
「休憩?」
「敵を変えるの。魔導学院の卒業生から、私たちを襲ったあの男たちのような人間に」
「どうして?」
「そっちの方が魔導王国の中枢に近いからよ」
「成程ね。でも、どうやって見つけ出すんだ? ミアが言いたいのは、あの男が所属する組織のようなものを叩くってことだろ? でも僕らには、あいつらに関する何の情報もないじゃないか」
「だから、休憩よ。相手の正体を探る時間が必要だわ。えーくんは少し休んでいて」
※※※
というわけで、僕はミアの厚意に甘えてダラダラ過ごすことにした。
朝起きて、そのままごろごろ。
昼過ぎて、飽きずにだらだら。
夜が来て、ひとりでうだうだ。
で、寝て、また、朝起きて……。
「ねえ、えーくん」
「なあに、ミアちゃん」
「私が何してるか分かる?」
「敵について調べてるんだろ? ……おっと、何も言わないで。僕に休憩していいって言ったのはミアだからね。自分が大変だからってその苦労を他人にまで押し付けるのは筋違いだからね」
「ぐぬぬ」
「じゃ、僕はもう一回寝るから」
僕は再びミアのベッドに横になった。
ミアは机の前に座っていて、その周りには本や紙切れ、その他さまざまな資料が散乱していた。
ここ数日でミアが集めてきたものだ。真面目だなあ。
きっと魔導学院時代も相当に優秀な学生だったに違いない。僕と違って。
「ちょっと待って、えーくん」
「なんだよ。先に言っとくけど、僕にその資料を触らせない方がいいぜ。十秒あればチリ紙以下にできる自信がある」
「そうじゃないわ。私、お腹が空いてしまったの。えーくんも今日はまだ何も食べてないでしょう? お金をあげるから、食べられるものを買って来て欲しいの」
「残念ながら僕は休憩するので大忙しなんだ。悪いけど、他を当たってくれる?」
「なんでそんな意地悪言うの?」
ミアが頬を膨らまし、唇を尖らせる。
うっわー、あざとい。
おっさんならそれで騙せたかもしれないけれど、僕は騙されない。
で、何を買って来てほしいって? おじさんなんでもいうこと聞いちゃうゾ。
「……仕方ないな。じゃあ、ネコの真似をしながら、『えーくんにお買い物、行ってきてほしいにゃあ』って言ってくれたら行くよ」
「えーくんにお買い物……」
「おおっと、この前みたいに真顔で言うのはナシだぜ! 一ミリも萌えねえからな!」
「チッ」
ガチ舌打ちされた……。
「さあ、どうするミア。やってくれなければ、僕はテコでも動かないよ」
「どうしても言わなきゃダメ?」
「ダメ」
ミアはため息をつくと立ち上がり、ベッドで寝転ぶ僕の傍まで近寄って来た。
心なしか、その頬は赤かった。
そして僕の隣に寝転んで、
「えっ、えーくんに、お、お買い物行って、欲しい、にゃあ……」
「…………」
「……ち、ちゃんとやったけど? これで買い物してきてくれるのよね!」
ミアは顔を真っ赤にして、僕に怒鳴る。
「あのさ」
「な、何かしら?」
「人の人生って、どうして儚いんだろうね……」
「……は、え、はぁ!?」
「あ、ごめん。間違えた。買い物は一緒に行こう。ミアを一人で残すのは心配だから」
危ない。うっかり悟りを開きそうになった。
僕がやらせといてなんだけど、色んな意味で心臓に悪いのでもう二度と頼まないようにしよう。
閑話休題。
かくして僕らは部屋を出て、町へ出かけることになったのだった。
そこで
※※※
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