第6話.......それから10年後

「いやぁ、どうもどうもどうですか?景気は?」


畑を耕している俺の前に突然スクリーンが現れて見覚えのある陳腐ちんぷな姿が映し出された。


「……」


「あれ?お忘れですか?若年性の…」


「何しに来た?」


「つれないですねぇ。久しぶりの再開の第一声がそれですか?」


「……用がないならどっかいけ」


「つめたい!」


「どうしました博士?!」


遠くで男がこちらの異変に気がついて大声で叫んでいる。


10年前は拳銃を振り回していたがスッカリ丸くなって今では俺の助手の様な立ち位置に居る。


「いや!なんでもない!そっちの収穫を急いでくれ!」


どうやら向こうからはスクリーンが見えないらしい「わかりました」といきのいい返事と笑顔が帰ってきた。


人は変われば変わるもんだ。


アレだけ暴れていた男も、添加物のない自然な食生活と大自然の中で生きるとまるで好青年の様な人格に変わるらしい。


「おい、用事があるなら早く済ませてくれ」


俺は皆に気付かれない様に小声で異次元人に話しかけた。


「いやぁ、実験終了のお知らせを…」


「はぁ?終了ってなんだ?どういう意味だ?」


「そのままの意味ですが」


「俺を……俺達を消すのか?」


「え?どうしてそう思うんです?」


「俺達以外を消しただろ!あの日!」


「え?そう思ってたんですか?やだなぁーそんなことしませんよ。言ったじゃないですかぁ」


「……なにを?」


「温厚だって」



「は?じゃあ、あれは?どういう意味だ?」


「なんです?」


「消したものを元には戻せないって」


「消したものを戻せって言うから出来ませんて言っただけですよぅ」


「はぁ?」


「もともと消えてないから戻すも何もありませんよぅ」


「なんだそれ……じゃあ、セバスチャンや他のメイドとかも?」


「はい、消えてません」


「何処に?何処にやった?」


「ええと……彼らを何処かにやったと言うよりは、あなたがた百人だけ違う世界に来てもらったんです」


「え?」


「言ったでしょ、我々のテクノロジーでは世界中を変えるなんて無理。せいぜい日本くらいだって」


「確かに」


「あの日。あなたがた百人だけを我々が選んでこちらに来てもらったんです。日本をコピーした別の次元にね」


「はぁあ?!じゃあ日本は?!」


「ありますよぅ普通に、あなたがたの様な優秀な人達が居なくなっても文明レベルは下がりませんでした。逆に優秀なあなたがたの方が……」


「当たり前だろ」


「え?」


「文明も財力も人の数が変化したものだ」


「なんだ、実験する前に博士に聞けばよかったですねぇ」


「まぁな」


「あれ?怒ってないので?この実験は無意味だったかもしれないのに」


「いや、ひとつだけ意味があった」


「へぇ、なんです?」


「空がこんなに青いって事に気がつけたよ」


「……博士」


異次元人は感動の面持ちで言葉に詰まっているように見えた。


いや、実際にはまったく表情が読めないのでそう感じただけかもしれない。


なぜなら次に発せられた異次元人の台詞があまりにもアッケラカンとしていたからだ。


「じゃあ、戻らなくても良いんですね?」


「それとこれとは話が別だ」


即答だった。






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