第5話

中にはザッと100人ほどの雑多な人間たちが集められていた。


男女の比率は男性が多い。


どちらかというと年配の人が多い。


テレビで見かける様な有名人がいるかと思えば誰だかわからない人もいる。


子供は皆無。


あれ?よく見ると日本人しかいない様な気がするが…。


「あの」


「なんでしょう?」


「悪い、全然わからない、それに日本人だけの様な気がするんだが」


「そうですか、じゃあ教えましょう、ここにいるのは、日本で一年間の稼いだ金額を上から並べていった時の100人です」


「な、なんでそんな理由で?」


「人って本当に千差万別で優劣がつけられないでしょう?」


「……は?」


「つまり知力、体力、魅力、センスなど、それぞれどの優劣で選別するかで迷ったんですよね」


「はぁ」


「色んな意見が出たあとに面倒になって、結局経済力がその人の力って事で良いという結論に至ったんですわ」


「ま、まて!海外にはもっと稼いでる人間がいるはずだ!」


「そこまでやると、我々のテクノロジーではちょっと追いつかないんですわ。ま、実験上として島国の日本が一番やりやすかったのでね。それで日本人しか居ないんですわ」


「じ、じゃあ日本人以外の国は無事なんだな?」


「それは、ちょっと教えられません。しかし、安心して下さい。間違っても戦闘機が飛んでくることはありませんから」


「つまり……隔離されてるって事か?」


「まぁ、ぶっちゃけそういう事になりますね」


「なんの為に?」


「それも、教えられませんね」


「何だそれは!答えになってないじゃないか!」


俺はつい大声で抗議してしまった。


集められた百人の何人かが俺と異次元人に気がついた。


「あら、アレって佐藤椎作さんじゃない?」


「え?誰それ?」


「ほら、長者番付ってテレビでよく出てる」


「新進気鋭のベンチャーなんとかって」


「え?うそ?あら、ほんとうだわ!テレビで見るよりいい男じゃない?」


気が付いた女性陣がドッと俺の前に押し寄せた。


「佐藤椎作さん!来ると思ってました!」


「サインください!」


「リーダーになって!」


「いや、リーダー的存在になって!」


「いや総理大臣に」


「それを言うなら王様でよくない?」


女性陣は口々に勝手な事をまくし立てた。





「ちょっと待てや」


そう言い放った男はチャラ男というのがぴったりの服装で他の人々から明らかに浮いていた。


彼も選ばれたって事は稼いでるのだろうか?


有名人でもなさそうだし、一見どこにでも居そうな若者に見えるが……。


「どうしました?」


俺は努めて冷静に応えた。


こんなある種特殊な状況下では何が引き金で争いに発展するかわからない。


どうやら異次元人の狙いは殺し合いをさせるなんて物騒な意図はない様だし、だとするとこれから何をするにしても人数がいた方が良い。


仮に意見の違いで分裂する事があったとしても抗争なんてのは文字通り自殺行為だ。


なにせ百人しかいないのだから。


既に我々は絶滅危惧種になったのだ。





「あのさぁ、有名人か何か知らんけどさぁ、後からノコノコやってきてリーダーとか、王様だとかさぁ、ちょっと虫が良すぎるんじゃない?」


男はこちらに戦意がないと判断すると薄ら笑いを浮かべてそういった。


「いや、もちろん、俺は自分からリーダーになりたいとは言ってない。リーダーに相応しい資質のある人が居れば……」


「あの」


そこで、年配の男性が口を開いた。


「ここは1つ年功序列で決めるべきじゃないかね?今までだってそういう日本の良い伝統の上に粛々と…」


「いや、ちょっと待って下さいよ、今は非常事態ですよ。年が上とか下とか言ってられないでしょう」


そう言って話しに割って入ったのは体格のガッチリした男だった。


確かこの人プロゴルファーの猿……猿山さんだったか?


「ええと、では猿山さんでしたっけ?あなたはだれがリーダーに適任だと?」


「やはりこう言った非常事態には女子供を守れる体力でしょう?どうです?腕相撲大会で決めるっていうのは?」


猿山は如何にも自分が勝ちそうな案を提示してきた。


「いやぁ、それよりやはり選挙をやった方が…」


「いや、結局は統率力だと…」


「いやいや、古き良き日本の伝統を…」


皆が口々に喋り出すので収拾がつかなくなってきた。


「あの、わかりました、わかりました皆さん落ち着いて……」


パーン


俺がみんなを宥めようとしていると乾いた破裂音がドームいっぱいに鳴り響いた。


一気に静かになった人々は音の出所である一人の男を観るなり固まった。


先程のチャラ男が拳銃を上に向けて発砲した後不敵な笑みを浮かべていた。


「お前らうるせぇ」


男はそう言って99人を睨みつけた。



「……おい、馬鹿な真似はやめろ」


「は?馬鹿な真似?どこが?それって警察や社会が機能していた時のセリフだよね?今この状況で馬鹿な真似をしてるのは明らかにお前だと思うが」


「もし、その拳銃でここの誰かを殺したら窮地に陥るのはそっちだと思うが?」


「なんで?」


「他の人達が黙ってない」


「そうかなぁ?そんな正義感たっぷりのやつがここにいるかなぁ?」


「どういう意味だ?」


「なぁ、あんたらなんで選ばれたのか聞いたんだろ?だったらわかるだろ?金の為なら身内でも売り飛ばす、そういう奴らの集まりだろう?」


「い、いや。そんな事はないぞ」


「そうかい?俺は最初からズッとあんた等を観察してたけどね。身内が居なくなったってのに悲しむ奴が一人も居ないってのはなんでかね?」


「そ、それは……まだパニックになってるだけで」


「パニック?パニックになったやつがノコノコあのへんちくりんな奴の言う事を聞いてここまで来るのか?」


「それは、状況判断が早いだけで…」


「そう!状況判断の速さ!ちょっと異常だよね?自分らで自覚した方が良いよ。無自覚なサイコ野郎は見てて気持ち悪い」


「まて、だとしてもお前も一緒だろ」


「おれ?当たり前だろ、俺は犯罪者なんだから」


ひぃーという悲鳴が女性陣の中から上がった。



「犯罪者?」


「あぁ、そうだ。有名な詐欺グループのまとめ役が俺だ」


どうりで一人だけ浮いていると思った。


「そうか、しかし、やはりお前が不利な事には、かわりがない」


俺は目一杯余裕の表情で言った。


「数の有利か?たしかにな」


「わかったらその銃を……」


「やだね、そりゃ、俺がここに居続ける場合の話だろ?」


「まさか一人で生きるつもりか?自殺行為だぞ」


「いや、一人じゃないさ、パートナーは必要だろ?アダムとイブみたいに」


男はそう言うと一人の壇蜜みたいな女性を手招きした。


「ふ、ふざけないで!」


女性は声を荒げた。


「フザケてないさ」


男は薄ら笑いを浮かべて彼女に近づいた。


「おい!やめろ!」


「やめさせてみろよ」


ブゥん


男がそう言い終わる刹那、何かの駆動音がした。


次の瞬間男は足から崩れていった。


「な、何を……」


俺は懐に忍ばせていた物を取り出した。


それはリモコンの様な形をした何かだった。


「これ何かわかる?超電磁場発生装置これで君の耳の中にある耳石を浮かせたんだよね。立てなくなったでしょ?」


「なん……だそれ、聞いたことない…」


「当たり前だよ。まだ市販されてない発明品だからね」


「さすが佐藤椎作さとうしいさく博士!」


女性陣の中からそう声があがった。


「あんまり、博士って言われるのは好きじゃないんだけどねぇ。ベンチャーサイエンサーと言ってくれたまえ」


俺はいつもテレビで言ってる様にそう見栄を切った。


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