第3話



「おい!誰か!誰か!」


俺の声はホールの様な高い天井に反響して虚しく返ってくるだけだった。


窓に駆け寄って外を観た。


いや、だめだ、こんな中途半端な確認じゃ何もわからない!


俺は未だにテレビ局の考えた壮大なドッキリである可能性を捨ててなかった。


車庫に入って水素自動車のエンジンをかけた。


これも市販されていないタイプの自動車だが水を分解して酸素と水素に分けそれを燃料にエンジンが回る仕組みであり、つまり燃料は水だ。


これを持ってるのは世界でも数人で日本では恐らく俺だけの筈だ。


とはいえ、別段環境に配慮している訳ではなくただ新しい物が好きなだけなのだが。


フィーーーン


水素自動車の特殊なエンジン音を楽しむ余裕もなく俺は街へと向かった。


出来るだけ人が居そうな場所へハンドルを切った。




俺は信号機を守りながら走っていたが、途中から馬鹿らしくなってやめた。


もし、信号無視で捕まえにくるおまわりさんが居たら喜んで捕まりたかった。


それでも街で事故を起こしている車を見るたびに心が踊った。


野次馬根性ではない、もしかしたら人が居るかもしれないと思ったからだ。


しかし、多重衝突している車が煙を上げていても救急車も来なければ警察も来ない。


もちろん野次馬も居ない。


突然ドライバーだけいなくなった車がそのままどこかに突っ込んだ様子だ。


街中でクラクションが鳴ってる。


まるで、主人を失った車が其処此処そこここで泣いている様な音だ。


ドォーーーン


突然どこかで爆発音がした。


おそらく、車から流れた燃料に引火でもしたのだろう。


しかし、救出する必要はない。


誰も乗っていないのだから。


俺は何も考えられなくなり暫くポカンとその光景を眺めていた。


選ばれた……か。


どちらかというと取り残された気分だった。





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