第19話 いどうでしゅ

 翌朝。いつの間にか黒虎のバトラーさんと人間の姿のテトさんに挟まれて寝ていた。右を見れば黒虎のもふもふ、左を見ればご尊顔が眩しい色男。

 大人の姿であれば、確実に悶えるシチュエーションではあるが、今の私は幼児であ~る。恋愛感情に発展することもないし、間違いも起きようがない。

 とりあえず、眼福ではあるので二人の寝顔を堪能したあと、二度寝した。

 起きたらご飯ができていて、しっかりと食べる。スープはコンソメベースの野菜たっぷりスープ。パンに目玉焼きとベーコンが載っていて、とっても美味しそう!

 パンには切れ目が入っているから食べやすそうなのもイイ!


「いたらきましゅ!」

「いただきます」

「召し上がれ」


 ニコニコしているテトさんを眩しいと思いつつ、まずはパンをパクリ。ちぎれないかも……としょんぼりしていたら、バトラーさんがちぎってくれた。おとんか!

 味が濃くて美味しい黄身と、いい塩梅のベーコンは厚みがあって食べ応え抜群、香ばしく焼けているパンは仄かな甘みが感じられて、とても美味しい。大人の姿だったら、もう一枚食べている。

 こういう時、幼児だと損だなあと思うけれど、一枚で満腹になるんだからしょうがない。それに、テトさんのことだから、リクエストしたらまた作ってくれると思うんだよね。

 食べたくなったらリクエストしよう。

 スープも野菜の味が出ているし、幼児の歯でも難なく食べられるほど小さく切ってある。なんという心優しい気遣いか! 惚れてまうやろー!

 うまうまニコニコと食べているであろう私の様子に、テトさんもバトラーさんも満足そうな顔をして私を見つめる。……恥ずかしいからやめれ。

 ご飯を食べ終わったら、移動の準備。しっかりと着込んで外に出ると、家をしまうテトさん。

 それが終わればテトさんに抱き上げられ、移動開始。

 採取しながら歩くのは、今までと変わらない。たまーに襲ってくる魔物は私が一当てしてからバトラーさんが瞬殺という流れになりつつある。

 この方法のほうが私の体に負担なく、レベルを上げることができるからね。


 そんなこんなでレベル上げをしつつ採取もして、北へと歩き続けること三日。あと二日も歩けば山に近づくところまで来た。

 にもかかわらず、ここに来てまた雨が降って来たので、見つけた洞窟で四日ほど滞在した。

 秋の長雨状態だから仕方ないと思いつつ、それでもバトラーさんとテトさんがいたから、退屈するようなことはなかった。

 なんと、この先には洞窟がないことを想定し、雨の中テトさんが小屋を改良していたのだ。それを洞窟内から眺めていた。

 もちろん、小屋の中で料理をしないといけないからと小屋を拡張し、レベルアップしてログハウスになったのには唖然とした。

 中を見せてもらったんだけれど、寝室にはベッドがふたつ。ひとつはテトさんのでもうひとつは私とバトラーさんが寝る場所だ。あのもふもふ不思議植物が大活躍だったよ!

 他にもキッチンとその傍にはテーブルと椅子。椅子は大人用がふたつと幼児用がひとつという、気遣いもバッチリであ~る。ダイニングもあって、そこには狩った熊の毛皮がデーンと置かれ、なんと暖炉まであるというとても凄い家。

「そのまま住めるな」というバトラーさんに、「当然です」とドヤ顔をしたテトさん。ですよねー!

 雨が上がったあとはまた移動。雨後草うごそうや雨上がりに出るキノコなどを採取しつつ、冠雪した山に向かって歩く。そっちに近づくにつれて空気もひんやりとしてきて、肌寒い。


「ステラ、フードを被りなさい」

「あい、テトしゃん」


 テトさんに言われた通り、フードを被る。このコート、あったかいんだよ~。ふわもこで軽くて、とてもあったかい。

 フードを被ったら頭もあったかくなったんだけど……なんか、私を見たテトさんとバトラーさんがプルプルしてないか……?


「「か、可愛い……!」」

「しょんなりゆうでしゅか⁉」

「「可愛いは正義だ!」」

「しょれは、わかりましゅけろ!」


 見た目美青年で渋い声のおっさんが、体中をくねくねさせながら私を見てる。ぶっちゃけた話、とても不気味。というか不審者にしか見えない!

 そういったら落ち込ませてしまった。

 どう考えても二人が悪い! と内心で溜息をつき、呆気なく平常心に戻ったバトラーさんとテトさんに脱力した。

 そうこうするうちにテトさんのテリトリーから外れたのか、魔物が襲ってくる確率が増える。それを華麗な剣捌きで魔物を倒し、解体していくバトラーさん。

 本当に凄いんだよ、バトラーさんって。一度五体の狼に囲まれたんだけれど、剣舞を舞っているかのように華麗に動いて、綺麗に首を落としていた。もちろんそれはテトさんの補助があってのことなんだけれど、それでも最初の一体は狼が襲ってくる前に首を落としているんだから、その反射神経が凄いってことだ。


「ほえー……。バトラーしゃん、しゅごいれしゅ!」

「どうということはない。が、俺よりも剣技が凄いやつもいるしな」

「ええっ⁉」

「そうですね。先日話した中にいるんですよ」

「ああ。奴もSSSランクなんだ」

「しゅごれしゅ!」


 そんなに凄い人なのかあ。バステト様の神獣って言っていたから、絶対に魔物だよね。どの種族なんだろう? 会ってみたいな。


「あってみたいれしゅ。あえましゅか?」

「会える。あの山に棲んでいるからな」

「おお~」


 ドラゴンやワイバーンがいるって言ってたもんね。他にもいるのかな?

 なーんて思っていたらフラグが立ったらしく、お目当ての人とは違う人に出会うことになった。

 木々の隙間からボトっと落ちて来たのは、アラクネと呼ばれる、蜘蛛の上に女性の上半身がある特別な蜘蛛。但し、女性ではなくムキムキマッチョなおっさんだった。

 ……すんごく嫌な予感がする!


「あらぁ、テトにバトラーじゃない。人型になっているなんて珍しいわね」

「ああ。幼子がいるからな」

「幼子……?」

「この子ですよ」

「こ、こんにちは。ステラでしゅ」


 やっぱりだよ! テンプレキタコレ! オネェでムキムキマッチョなおっさんだったよ!

 なんでだよ! そこは綺麗でたわわなお胸様があるお姉さんでいいでしょ!


「あらあらまあまあ! なんて可愛い子なの! アタシはキャサリンよ! キャシーと呼んでネ!」

「「嘘を吐くな! キャサリンじゃなくてスティーブだろ! バステト様からいただいた名前を勝手に変えるな!」」

「いいじゃないのよう。アタシの心は女なんだから!」

「せめてバステト様のお名前の一文字でもいいからつけろ!」

「じゃあ、キャスリンで!」

「え……」


 なんだなんだ、このオネェさんは! 面白いんだけど!


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