第20話 オネェさんでしゅ
オネェさんであるスティーブさん改め、キャスリンさん。彼女も神獣なんだそうだ。
その種族故に、得意なのは裁縫。ムキムキマッチョでスキンヘッドなオネェさんが、大きな手と太い指を使って繊細なレースを編むんだぜ? それを想像しただけで、ちょっとげんなりしてしまう。
だけど、自分で作ったというレース編みを見せてくれたけれど、本当に綺麗に編まれていたのだ。まるで機械を使って編んだかのように緻密で、目も綺麗に揃っていたのが凄い。
で、キャスリンさんも一緒に行くと言い出し、あれこれと話し合いをした結果。
「ありがとう、ステラちゃん! アタシ、アナタの服や装飾品をいーーっぱい作るからねぇ♡」
「あ、あいがとでしゅ」
「いやぁーーーん!! 可愛いわ!」
「ぐえっ」
いきなりギュッと抱きしめられる。そんなに絞められたら死ぬがな!
苦しいからとバンバン叩いたもののびくともせず、察してくれたバトラーさんとテトさんに頭をはたかれ、やっと正気に戻ってくれた。
出会ってからここまでの流れは、およそ三十分。すんごく濃い~時間であった。
「あ、しょうら。キャスリンしゃん」
「キャシーでいいわよ、ステラちゃん」
「あい。キャシーしゃん、おふとんをちゅくってほしいれしゅ」
「お布団?」
「あい」
不思議そうに首を傾げるキャスリンさんことキャシーさん。拙い言葉ながらも不思議植物のこととテトさんが作った家のことを話した。
「なるほどねぇ。確かに、まだ秋の雨季は始まったばかりだものね。本来であればあと半月で終わるんだけれど、今年は特に長くなりそうなの」
「そのせいで、畑の野菜がダメになっているところもある」
「しょうれしゅか……」
なるほど。確かあと
その代わり、農村などは物納で税金を納めているので、それをかき集めるのが大変らしい。
そこは異世界だろうと江戸時代だろうと同じなんだなあと思った瞬間だった。
まあ、そんな事情は、ぶっちゃけた話、旅をしている私たちには関係ないし、神獣である彼らにも関係ないわけで。
ただ、長雨が続くとそれはそれで鬱陶しいらしく、三人そろって食材の宝庫であるこの森から出るのをやめようとか言い出したのだ。冗談じゃないぞ、おい。寒いのは嫌だ。
なので、きちんと主張するとも。
「しゃむいのはいやでしゅ」
「「「あ」」」
「わたちのそんざいをわしゅれてまちたね!?」
さっと目を逸らす三人に、ジトーっと見つめる。
「はあ……そうよね。ステラはまだ幼子だもの、この森にいたら危険よね」
「そうですね……すっかり失念しておりました」
「せめて、セバスとセレスティーナがいる山までは行ったほうがいいだろう」
「そうよね。アタシたちなら、ここまで来るのにそんな時間もかからないもの。なら、さっさと移動しましょう」
「「ごねたお前が言うな!」」
「てへっ♪」
なんとも軽いノリなキャシーさんだな、おい。確か、元の名前はスティーブさんだったよね? それって以前最強の一角だって言ってた人の名前じゃなかったっけ?
そう思ってテトさんに聞いたら、うんざりした顔をしながらも「そうです」と頷いた。蜘蛛種故に糸で攻撃することが得意で、その糸も見えなくすることができるもんだから、どこから攻撃されたかわからないうちに体が真っ二つになっているらしい。
……こわっ! そりゃあ最強の一角と言われるわけだ。
「あまりのんびりしてられんしな。さっさと休憩地に向かうとするか」
「そうですね、そのほうがいいでしょう」
「なら、アタシがステラちゃんを抱えるわ。そうすれば本来の姿のまま移動できるでしょ?」
「そうだな。そのほうが早いし」
「なら決まりネ!」
本来の姿って、ティーガーに死神ってか? おお、それはそれで見たい!
てなことを一生懸命伝えたら、それはもうバトラーさんとテトさんが張り切ってしまい、すぐに人型から本来の姿に戻った。しかも、バトラーさんのサイズが半端なかった。
いつも見ているサイズは、動物園で見たトラやライオンのサイズと変わらない。けど、本来の姿になったバトラーさんのサイズは、象も真っ青な大きさだったのだ!
「ほえ~! かっこいいれしゅ、バトラーしゃん!」
<そ、そうか?>
「あい!」
<ふむ。ならば、ステラは我の背に乗るがいい。まず落ちることもなければ、我が落とすこともないからな>
「ほんとれしゅか⁉ きゃー♪」
「アタシが抱っこしたかったのにーーー!」
そう叫ぶキャシーさんに、バトラーさんもテトさんもシカトしている。キィキィ喚くキャシーさんだったけれど結局はテトさんに渡す。そしてテトさんはふわりと浮かんでバトラーさんの背に私を乗せると、そのまま横に浮かぶ。
<ステラ、バトラーの毛を掴んで離さないように>
「あい」
ふかふかの毛はとても温かくて、その大きさ故に毛も長い。その中に埋もれるようにして座る私に注意してくれたテトさんに、しっかりと頷く。
そしてバトラーさんが魔法をかけたのか、私の周りに膜が張られ、寒く感じていた空気を感じなくなったのだ。凄い!
<では、移動する。テト、スティーブ、遅れるなよ>
「キャシーだって言ってるでしょ! 遅れそうなら乗せてちょうだい」
<構わぬ>
では行くぞ、と声をかけたバトラーさん。まずは私がその移動に慣れるよう、ゆっくり歩いてくれた。
その間にテトさんとキャシーさんが薬草や果物を採取し、新たに発見した野菜も収穫。私の位置からはどんな野菜を収穫したのかわからないけれど、テトさんからもキャシーさんからも嬉しそうな声をしているから、欲しかった野菜なんだろう。
採取と収穫を終えたのか、本格的に移動を開始し始めるバトラーさん。最初はゆっくりだったものが、自転車のスピードになり、車のスピードになり、新幹線のスピードになる。
それなのに風の抵抗を受けることなく、私は飛ぶように後ろに流れていく景色を楽しんだ。つか、地面を走ってないんだよ、バトラーさんは。
〝駆ける〟という言葉がぴったりなほどで、下手すると戦闘機並みに速いかもしれない。
というのは大げさだけれど、それでもかなり速いのは確かだった。
徒歩で二日かかると聞いていたのに、一時間足らずで山のふもとに着く。見上げた山には万年雪がかかっていると、テトさんが教えてくれた。
これから暗くなるし雨が降って来る可能性が高いというので登山せず、大きな岩を探して歩く私たち。途中でぽっかりと穴が開いている岩が見つかる。
<先住者はいないようですね>
「一応アタシが見てくるわ」
<頼む>
先に穴の中に入ったキャシーさんは、ほどなくして私たちを手招きする。岩の穴は、以前バトラーさんと一緒に過ごしたような緩やかな上り坂になっていて、雨が逆流する心配はない。
そして中もかなり広くなっていて、本来の姿のバトラーさんが余裕で寝そべることができる広さだった。それを確認したあと、バトラーさんとテトさんが人型になる。
「よし、ここならしばらく大丈夫だろう」
「そうね」
「なら、スティーブとバトラーで薪の用意をしてくれますか? 僕はご飯の用意をしますから」
「キャシーだってば!」
「わかった」
はいはい、って感じでキャシーさんをあしらうバトラーさんとテトさん。その慣れた様子から、毎回このやりとりをしているんだろうなあ……と苦笑してしまった。
それぞれができることをして、私はテトさんのお手伝い。といっても、手際のいいテトさんのお手伝いなんて、せいぜい野菜の皮を剥くか鍋をかき混ぜるくらいしかない。
それでも卵とじにしたスープをかき混ぜたりしていると、バトラーさんとキャシーさんが戻ってきた。
「雨が降りそうだ」
「大量に持ってきたから、当面は大丈夫よ」
そんな話をして、大きな倒木を糸でパパっと薪に変えるキャシーさん。おおう……すげー! 一瞬で薪に変わったよ!
そこには十日分くらいはありそうな薪がででーん! と小山になっていた。
焚火ができるように石で囲い、その中に薪や枯れ葉、細い枝をくべて火を点けるキャシーさん。そうこうするうちに雨の音がし始め、ザーっという音に交じり、雷鳴も聞こえてきた。
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