第18話 わたちのかくごでしゅ

 スキルが生えてテトさんに唖然とされたけど、そこは長年生きてる神獣様。思いっきり溜息をついたあとで諦め顔をし、ニッコリと笑って頭を撫でてくれた。

 スキルになってしまえばもはや私が意識しなくても発動状態になり、左上に展開しているマップに反映されているのが凄い。本来であればスケルトンなどの骸骨戦士があちこち徘徊しているそうなんだけれど、テトさんがいるからなのか範囲内にはいない。

 いたとしてもさっき倒したボアと狼、熊が主流だそうで、それを考えると比較的安全なんだそうだ。……とある映画をもじり、死の森の中心で安全を叫ぶとは、これ如何に。

 まあ、そんな感じなのでのんびりと歩きながらも、バトラーさんは中心部にしか生えていない薬草や果物を教えてくれるので、採取する。それはテトさんにも言えることで、自分にとって有用な薬草や毒草を採取していた。


「テトしゃん、しょれってろくれしゅよね?」

「ん? ええ、そうです、毒ですよ。一部の薬に必要なんです」

「たとえば?」

「人体ですと毒消しに、あとは虫除けなど冒険に使うものが多いですね」

「おお~」


 虫除けになるのか!

 薬の作り方などはもう少し大きくなってからじゃないと教えられないと言われたので、ぶー垂れてみた。するとテトさんは頭を撫でて慰めつつ、「幼児の手では力を入れて薬草を潰せないから」だって。

 確かにそうだね。納得した。

 必要な薬草が多いのか、わざとぐるぐる回るようにして中心部を彷徨う私たち。急ぐ旅じゃないとはいえ、テトさんの張り切り方が尋常じゃないのがなんとも……。

 お昼を挟み、私が昼寝をしている間もずっと採取していたそうで、私が起きる寸前でバトラーさんに叱られ、やっと北に向かうことができたんだって。何をやってるんだよ、テトさんは。

 それでも道中は私を抱えながら戦闘と採取をしているんだから、バトラーさんと一緒に呆れた。そうこうするうちに辺りが薄暗くなり、今日の野営地を探す。

 この辺りがテリトリーだからなのか、テトさんはすぐに野営地となる場所に連れて行ってくれた。水が湧いている場所だそうで、とても小さいけれど泉ができていた。

 その周辺は芝生のような草が生い茂っており、触ると手触りがいい。つい寝転がってしまったら、二人に「泉に落ちたらどうする!」と叱られてしまった。

 だよね、すぐそこに柵のない泉があるもんね。大人の体なら問題ないけれど、幼児体形だと一人で泳げるとは思えない。なので、そこはしっかりと反省した。

 その代わり、テトさんがご飯を作っている間なら、彼の近くで転がっていていいと許可が出たので、テトさんが寝泊まりする家を出すまでおとなしくしていよう。家を出してくれたらバトラーさんと一緒に寝床を作り、外に出てテトさんに近づく。

 といっても料理の邪魔はしたくないので、彼とバトラーさんが見える位置で、尚且つそんなに離れていない場所で芝生のような草を堪能した。毛足の長い絨毯みたいで気持ちいいんだよ、これが。

 充分堪能したらご飯ができたと呼ばれたので、魔法を使って綺麗にしたあと、泉で手を洗う。魔法で綺麗になるとはいえ、つい日本にいた時の習慣が出てしまうのは仕方がない。

 小屋は寝るだけだから、ご飯は外だ。

 今日のご飯はなんだろうとわくわくしていると、目の前にパンとチキンサラダ、ブラウンシチューが置かれる。デザートはマンゴーのような見た目と色の果物だ。

 パンは相変わらず幼児サイズで小さいし、乗っているチキンも野菜も幼児サイズなのが凄い。ブラウンシチューの肉と野菜も小さくなっている。表面の一部の色が鮮やかな色合いになっているから、きっと私が食べやすいように切ってくれたんだろう。

 ブラウンシチューなんでずいぶん久しぶりに飲むなあ。どんな味かな。

 期待しながら一口、口に含む。


「おいちいれしゅ!」

「本当に」

「それはよかったです」


 とろっとしたブラウンシチュー。ニンジンとジャガイモ、肉はウルフかな? スプーンで切って口に運べば柔らかい肉がホロホロと崩れる。野菜も柔らかく、溶けるように喉を通っていく。

 本当に美味しい!

 私が作るブラウンシチューよりも美味しい。ちょっと悔しいけれど、生きてる年数が違うんだから当然か。

 私がもっと大きくなるまではずっとご飯を作ってあげると言うテトさんに、感謝の印に抱きついてみた。そんな行動を取ると思わなかったみたいで、嬉しそうに頬を染めて目を細めたあと、ギュッと抱きしめてくれたテトさん。

 バトラーさんもそんな様子を穏やかな表情で見つめている。

 ……テトさんは死神だし、見た目は骸骨だ。きっと、見た目とその種族故に、思い込みで忌み嫌われていたんだろう。

 だけど、私にしてみればそんなの関係ないし、一度は生で見たかった憧れのスケルトン系の魔物だ。変態でも変人でも構わん、好きなものは好きなんだよ!

 ただし、学校にある骸骨、お前はダメだ。あれだけはどうにも受け付けないのが不思議。

 だから、感謝も込めて、言葉にする。

 言霊って言葉がある国に生まれたんだぞ? 感謝はしっかり捧げるとも。


「テトしゃんはあったかいれしゅ」

「骸骨――死神なのにですか?」

「しゅじょくはかんけいないれしゅ! テトしゃんじしんがあったかいんれしゅ!」

「……」

「らから、あんちんちましゅ。わたちがちぬまれ、いっちょにいてくらしゃい、テトにいしゃま」

「……ええ、もちろんですよ」


 震えるような声で頷いてくれたテトさん。死神は怖いって? バカ言っちゃいけない。怖いのは自分に疚しいことがあるからだ。

 確かに、地球だと死神といえば死を司るものだけど、ここは異世界。もし本当に怖い魔物ものならば神獣になれはしないし、なることもない。忌み嫌われる魔物として討伐され、生を終えるだけだ。

 それに、心がない魔物としての死神だったならば、バステト様が神獣になることを許しはしないでしょ?

 今までそれがなかったってことは、意図して人間たちの命を屠ったりしていないってことじゃないか。襲われたなら反撃するのは当たり前の世界に住んでるんだから。

 殺す覚悟があるなら、殺される覚悟もないと。

 そういう世界だよ、この世界って。

 まだ数日だけれど、魔法を使って攻撃して、バトラーさんとテトさんが魔物の命を奪うことを目にしてきた。直接ではないにしろ、攻撃していることで、私も命を奪うことに加担しているのだ。

 だからこそ、異世界で生きていく覚悟を決めた。

 そして「いただきます」と「ごちそうさま」の意味を深く理解した。

 ここは、解体され、ブロックや部位になって売っている日本じゃない。そういう状態だからこそ命をいただくことに希薄だったけれど、ここはそうじゃない。実感せざるを得ない。

 本当は怖いけれど……きっとそれを感じさせないために、バトラーさんとテトさんが私を気遣ってくれているんだなあって感じたから。

 だから、神獣である彼らの傍にいることを恥じないように、そして相応しくあるように、いろいろと頑張ろうと思う。

 拙い言葉でそんなことを二人に話すと、両脇からギューギューと抱きしめられてしまった。


「く、くるちいれしゅ……っ」

「ああ、すまない。なんとも可愛いことを言いますね、ステラは」

「ああ。普通はそんなこと言わないからな?」

「うえ?」

「「そのまま大人になれ」」


 意味不明です、お二人さん。

 中断していたご飯を再開し、三人で和やかに食べる。最初に出会った時よりも明るい顔になったテトさんに、胸を撫で下ろした。


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