第10話 じぶんのしゅてーたしゅでしゅ
翌朝起きると、まだ雨の音がしていた。魔の森で雨が降ると、数日は止まないとバトラーさんが話す。
「キノコも果物もたくさんあるし、肉も問題ない」
「わたちもかなりあるでしゅ。パンも、ふしぎなことに、あさになるとかずがもどっているんでしゅ」
「そうか……。なんとも不思議な鞄ではあるが、我以外には話すでないぞ? ステラが狙われるからな」
「あい」
バトラーさんの真剣な眼差しに、私もしっかり頷く。もちろんバトラーさん以外には話さないよ! 盗まれたとしても、私の名義になっているからね。ただ、戻ってくるのか? そこが心配だ。
「バトラーしゃん、こじんのめいぎでとうろくしゃれているばやいって、ぬしゅまれたときはどうなるんでしゅか?」
「個人の名義? ああ、
「しょうなんれしゅね」
おお、ちゃんと戻ってくるうえに使えないのか! それなら安心だ~!
この鞄、すっごく気に入っているんだもの。誰にも渡したくない。
しばらく雑談をして、生活魔法の水で顔を洗う。それから朝ご飯の用意をする。
といっても残りのミルクスープがあるから、パンを温めるだけですむ。ただ、薪になる木材の残りが少ないから、バトラーさんが拾いに行って来てくれるそうだ。
その間、私はここでお留守番。魔力循環と操作をして、レベル上げをしていてほしいと言われた。
幼児だもんね。薬草はあってもポーションの類はないし、作り方を知らないし。いい子で待ってるとも。
「入口に結界を張っていく。何があっても、外に出るでないぞ」
「あい」
行ってくると一言告げ、バトラーさんは黒虎になって外に出ると、左の前足を振ってから雨の中を駆けていった。それを見送ると、多少は余裕がある薪を二本くべ、レベル上げをする。
「あ、しょうら。じぶんのしゅてーたしゅってみれるのかな」
そういえば自分を鑑定するのを忘れていたなあ……と思い出し、自分のちっちゃな手を見ながら「かんてい」と言ってみる。
「おお、でたー」
すると、目の前に10インチタブレットサイズの画面が出る。人を鑑定できると聞いていたから大丈夫だと思っていたけれど、まさか本当に自分も鑑定できるとは思わなかった。
名前 ステラ
性別 女
年齢 3
種族 神族
レベル 12/999
スキル 魔法の心得(Lv:ー)
料理人(Lv:ー)
調合(Lv:1)NEW
魔力循環(Lv:2)NEW
魔力操作(Lv:2)NEW
地理把握(Lv:1)NEW
魔法 風魔法(Lv:ー)
火魔法(Lv:ー)
雷魔法(Lv:ー)
光魔法(Lv:ー)
生活魔法
鑑定
言語理解
マップ生成(Lv:ー)NEW
称号 女神バステトの愛し子
転生者
神獣バトラーの愛し子NEW
画面にはこんなことが書いてあった。
やっぱり三歳だったよ! そしてバトラーさんはやっぱり神獣だったか。
不思議なのは、なぜかレベルが上がっていることだ。もしかして、内臓や骨を燃やしたから?
まあ、それはそれとして。
神族ってなんやねん。この世界にいる種族でいいのか? そして調合と地理把握、マップ生成ってなにさ。バステト様と話し合った時にはなかったぞ? なんでこんなのがあるんだ?
他のと同じで画面が触れるかなあと思って指先をあててみると、触ることができた。それなら、気になっている単語や文面をタップしてみよう。
まず、神族をタップしてみると、説明が現れた。この世界はメアディスという世界で、神族はその中でも少数しかいない種族だという。貴重な光魔法が使えることと、その見目麗しい容姿によってとある国にいる貴族や王族の奴隷にされ、数を減らしていったんだとか。
……おい。なんでそんな貴重な種族にしたんだ、バステト様! 狙われるだろ! しかも、バトラーさんから似たような話を聞いたばっかなんだけど!
イラっとしつつも一回深呼吸して自分を落ち着かせると、スキルや魔法の後ろにある(Lv:ー)をタップする。
すると、『レベルが上限に達しています』と出た。なるほど……カンストしちゃっているから表示がないのか。ただ、どこまでレベルが上がるのか知りたいから、それはあとでバトラーさんに聞こう。
次に称号のところにあるバステト様をタップすると、【基本魔力値大幅上昇】、【精神力耐性】、【状態異常無効】、【レベル上昇率UP】、【習得経験値一定(五歳まで)】、【幸運上昇】、【好かれ体質(動物)】となっていた。
だいたいわかるけれど、習得経験値一定とはなんぞやとこれもタップしてみると、本来はレベルをひとつ上げるためには、レベルUP時の数字を基準に、1.5から二倍の経験値が必要だと書かれていた。
イマイチよくわからないが、たとえば1から2では1、2から3までは2、3から4までは4と倍に増えていくようなイメージで考えればいいんだろうか。こんなに数字が小さいわけがないと思うけれど、面倒だからRPG的なレベルの上がり方を想定すればいいんじゃないかと思うことにした。
この祝福があると、ずっと一定のままの経験値でレベルUPできるという仕組みみたい。RPGのように経験値が書かれていないから、どれくらいの経験値を習得したらレベルが上がるかわからない。が、年齢が指定されているってことは、その年齢までは使える祝福なんだろう。
今は幼児だものね。低い数値でレベルUPすることが必要なんだろう。
まあ、年齢的に戦闘はさせてもらえないと思うから、この森を抜けてずっと旅をしない限り、そこまで高いレベルになることはないと思う。やりたいと言ったとしても、この森の中ではやらせてもらえないだろうし。
それだけ強いんだろうね……魔の森に棲息するような魔物は。一応鑑定してから倒してもらっているけれど、バトラーさんと出会った時に倒したボアよりも、今いる場所のほうが魔物のレベルが高いし。
しかも、全く戦闘していないのにレベルが上がっているんだぞ? どう考えたってレベルの低い私が、レベルの高い魔物の内臓と骨を燃やしたのが経験値になっているとしか思えない。
数値として見えれば検証のしようもあるが、ないからね。無駄な努力はしないことにした。
そして転生者は特に何もなく、神獣バトラーの愛し子をタップすると、【薬師の心得】、【土地勘】、【サバイバルの心得】と出た。あ~、調合は薬師の心得、地理把握は土地勘のせいか!
バトラーさんは森の中のことをなんでも知っていそうだしね。たぶんこの祝福が原因だろう。
魔法は追々でいいとして、調合をタップしてみると、そこにポーションのレシピが現れた。使う薬草と作り方も載っている。
ポーションが作れるようになるのはありがたい。お金を稼ぐ手段ができたわけだから。
さすがにずっとバトラーさんにおんぶに抱っこはいただけないからね。五歳くらいになるまではしょうがないにしても、それくらいになったら調合できるように頑張ろう。
それまでは封印かな。力もない幼児だから、すり潰しもできないだろうし。
そして最後にマップ生成。これもレベルがカンストしている状態だ。
「マップせいせい」
そう唱えると、目の前に大きな画面が現れた。しかも、青色のピンの上に私の名前とバトラーさんの名前が書かれていて、今まで通って来たらしいところはカラーになっている。
カラーの周囲はグレーだから、通った場所だけが地図として残っているんだろう。
他にも、薬草の名前が書かれている場所には緑色のピン、果物はオレンジのピン、魔物は赤いピンになっていた。
あの布団になる不思議な草は黄色だ。アルゴドンという名前らしい。
魔物に関しては名前が「???」になっているものがあるから、見たことがあるものか鑑定したものしか表示されないんだろう。便利だなあ。
バトラーさんの近くに赤いピンがあって、「???」になっている。魔物に遭遇して戦っているのかな? 見えないけれどハラハラしながらマップを眺めていたら、すぐに赤からグレーになった。
倒したってことなのかな。凄いなあ、バトラーさん。一瞬で倒したよ。
そうこうするうちにバトラーさんのピンが移動を開始したので、マップを閉じてステータスの画面も閉じる。かなり時間がたってしまったから、循環と操作のレベリングをしておかないといけない。
お昼はどうしようかなー、なんて考えながら、バトラーさんが戻ってくるまで、しっかりとレベリングをした。
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