第11話 もりのさいおうでしゅ

 バトラーさんに習った通りにしながらあれこれやっていると、びしょ濡れになったバトラーさんが帰ってきたので、残っていた薪を足して炎を大きくしておく。入口にて、魔法ですぐに水滴を散らしたバトラーさんは、人型になると焚火の前に来たので毛布を渡す。


「ステラが被っていてもいいんだぞ?」

「らいじょうぶれしゅ。ばしゅてとしゃまからいただいたうわぎがありましゅから」

「そうか。なら、遠慮なく借りておこう」


 火の傍にいるとはいえ、背中側は寒いもんね。バトラーさんに毛布を渡したあと、鞄からふわもこのとても軽いコートを出すと、それを羽織る。

 このコートも猫柄で、フードには猫耳と目、鼻と髭が付いているなんとも可愛らしいコートだった。バトラーさんによると北に向かっているし、真冬ではないけれど、雨が降っているからなのか、かなり寒いから助かる。

 確かに、幼児な私がずぶ濡れになっていたら、風邪をひいていたかもしれない。

 すぐに温かいミルクティーをバステトさんに渡すと、笑みをこぼして受け取ってくれた。

 ある程度温まったらしいバトラーさんは、焚火の横に薪となる木材を山盛りに出すとそれを全部乾燥させ、そのうちのいくつかを竈にも入れてくれる。竈は炭になった木材がちろちろとくすぶっていて、枯れ草と細い枝をくべて息を吹きかけると、あっという間に燃え上がった。

 そろそろお昼ご飯の支度をしようと思っていたから助かる。寒いからスープを作るのは確定として……どうしようかな。

 森で採れた豊富な食材を使って作るとしたら、何かいいだろう? 鞄の中に手を入れて画面を出すと、私の手持ちの食材を探し、眺める。

 お? ベーコンスライスの他にもベーコンブロックがある。ソーセージもあった。米があればリゾットかおじやでも……と思ったが、量が少ないんだよね。

 一日たてば元に戻るとはいえ、5キロしかないからなあ。どうするか。

 ちらりとバトラーさんを見ると、笑みを浮かべてミルクティーを飲んでいる。……バトラーさんが食いしん坊じゃなけりゃ放出するんだが、これまでの様子を見るに、大量に食べると確信できる。

 まあ、その前に炊飯器がないからどうにもならないが。

 しまったなあ……土鍋くらいはもらっておくんだった。陶器のカップがあるんだから、土鍋があったとしてもおかしくない。

 陶芸の趣味はないが、もし陶器を扱っている店を見つけたら、土鍋を作ってもらおう。それまでは炊くのは我慢して、フライパンや鍋でピラフやリゾットを作ることにしよう。

 今日は面倒だからおかゆもどきというかピラフというか、そういうものにするか。もしくはリゾットか。野菜と肉をたっぷりいれれば、リゾットかパエリアでもいいかな?

 そうと決まれば材料を用意して作りますか!


「ステラ、料理を始めるのか?」

「あい」

「なら、これを渡しておこう」

「おお、おにくとほね! ありあとでしゅ!」


 バトラーさんが渡してくれた肉は、ギャーギャー鳥という鶏肉に似た味で、もしまた見つけたら骨もとっといて欲しいとお願いしていたのだ。これならいい出汁がとれる~!

 カロートにんじんシプリ玉ねぎパタタじゃがいもとキノコ、ベーコンブロックとラトマトマトを使い、トマトリゾットにしていく。コンソメのキューブや細粒があればいいんだが、そんな便利なものはない。

 しまったなあ……ブイヨンを作っておけばよかった。野菜屑はとっといてあったから、その野菜屑とギャーギャー鳥の骨を使ってブイヨンを作ろう。まあ、それはご飯を食べ終わってからだ。

 煮込んでいる間にバゲットを二本出し、斜めにスライスしてから竈の端っこで焼く。ニンニクがあるから、ガーリックトーストにして、っと。

 くそー、バターが欲しい! 牛乳があるから作れるだろうけれど、ペットボトルのような容器がない。そのまま水筒を使って振ってもいいが、できれば別の容器を使って作りたいんだよ、わたしゃ。

 しまったなあ……そういう空き容器もお願いしておけばよかった。せめて竹でもあればいいけれど、今のところ見ていない。

 ないものねだりしたところで何かが変わるわけではないから、スッパリ諦めるが。

 焼けたパンから半分にしたニンニクを擦り付け、お皿に並べていく。他にもサラダを作り、紅茶も用意。

 頃合いを見て味見をし、足りない調味料を入れて完成。それをバトラーさんにお願いして焚火の近くに置いてもらうと深皿に取り分け、バトラーさんに渡した。


「あい、どうじょ。あちゅいからきをちゅけてくらしゃい」

「ありがとう」


 ふうふうと息を吹きかけ、トマトリゾットを口に入れるバトラーさん。若干頬を染めて零した笑みが、美味しいと物語っている。気に入ってくれたみたいでよかった!

 私もふうふうと息を吹きかけてリゾットを口に運ぶ。ベーコンの塩気と肉の味、ラトマトマトの酸味と甘みが絶妙だ。それに、カロートにんじんシプリ玉ねぎの甘さも出ていてとても美味しい。

 ちょっと味を変えるためにバトラーさんと自分のお皿にチーズを載せ、混ぜながら食べる。リゾットの熱でチーズが溶け、これまた違った味わいになる。

 あ~、ピザが食べたい! 粉はないから、ピザトーストがいいかな? 明日のお昼はピザトーストにしようと決め、リゾットを食べきった。

 私が食べきれなかった分はバトラーさんが全部食べたと言っておこう。

 眠気が来る前に鍋に水を張り、砕いたギャーギャー鳥の骨とくず野菜を入れ、竈に乗せる。骨はバトラーさんが砕いてくれた。


「バトラーしゃん、わたちがねむっているあいだ、このしろいのがでたらこれでしゅくってしゅててくれましゅか?」

「いいとも」


 何をするのか興味があったらしく、ずっと私の作業を見ていたバトラーさん。おたまであく取りをしていると眠くなって来たのであとはバトラーさんに任せ、草のベッドでお昼寝をした。ぐー。


 起きてすぐにバトラーさんと代わり、あく取りをしながら様子を見る。ガラと野菜のいい匂いと澄んでいる液体の色に、思わずにんまりとする。

 これでスープの味が格段によくなる!

 バトラーさんの話だと、あと二日は雨が降り続くだろうとのこと。薪もあと一回取りに行けば、その間は間に合うだろうと言ってる。

 ちらりと薪となる木を見る。確かに、大きな倒木から小さな枝までたくさんあるからね~。大丈夫だろう。


「ステラ、今のうちにまた倒木を集めてくる。ここから出るなよ?」

「あい」


 もちろん出ませんとも。風邪をひきたくないし、バトラーさんにこれ以上迷惑をかけることもしたくない。おとなしく洞窟にいるよ!

 風魔法の練習として木を乾かし、風魔法を操って薪サイズにカットしていく。どんどん積みあがる薪に、テンション上がるー!

 小さくなって来た炎の中に薪を入れ、洞窟内を温めておく。ずっと火が消えることなく燃えているからか、ここに来た当初よりは空気が暖かい。

 上着をしまい、魔力操作と循環をしつつ晩ご飯はどうしようかと鞄のリストを出すと、〝New〟と書かれているアプリのようなアイコンを見つけた。んん? これはなんだろう?

 不思議に思ってそれをタップすると、そこにあったのは大小ふたつの寸胴と両手鍋、追加の砂糖と塩と米、小麦粉と強力粉、バターと生クリーム、とろけるチーズを含めた数種類のチーズとスパイス、ドライイーストとゼラチンと粉寒天だった。あと、手紙。


「しょくじゃいはうれちいでしゅ。けど……てがみ? だれから?」


 首を傾げながらも手紙をタップすると、ポトっと地面に落ちる。慌ててそれを拾い、汚れがないか確認したけれど、特に汚れがなくてホッと胸を撫で下ろす。

 手紙の宛先は私。裏を返してみればバステトの文字が。


「お~、ばしゅてとしゃまから!」


 さっそく封をしてあるシールを剥がし、中から手紙を出した。


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