第53話 宝探し ☆
とある日、あたしは一人幼馴染であり――つい先日彼氏になった人の部屋にいた。
部屋の主である香澄は、香澄のお母さんに頼まれて買い物に行っている。つまりパシリ。
「……こいつの部屋、なんもないなあ」
ぐるっと首を回しても、目に入ってくるものは勉強机と本棚、それから衣装ケースぐらいなもので、生活感こそあれどそれ以外のものが見えない。
まあ、香澄は趣味あんまりないけどさ。にしたって、普段香澄はあたしといない時は何をして暇を潰してるんだろうと疑問になる程度には殺風景な部屋。
「宝探しだな?」
ということで、あたしは部屋を漁ることにした。
エッチな本の一つや二つ見つかるかもしれないしね。それで香澄をからかって遊ぶのも楽しいだろう。
なんてことを考えながらあたしはひとまずベッドの下から確認することにした――。
「……」
ホントにベッドの下にあるとは思わなかった。
あたしは香澄秘蔵のコレクションたちをベッドの上に並べていた。
たしかに、あたしはエロ本を探していた。探していたけれど、実際に見つかるとなんだかこっちが恥ずかしくなってくる。
最近彼氏なったとはいえ、エッチもまだし、長年幼馴染をしていた香澄の知らない一面を垣間見て、あたしは若干たじろいでしまう。香澄も男の子なんだなあと。
「……『あなたの知らない緊縛の世界』『縛って嬲って締め上げて』」
え、なにこのタイトルは。
表紙はどれもこれも、女の人が黒いベルト? みたいなので束縛されている。
パラパラと、おっかなびっくりしながらもページを捲る。
首輪をつけたり、ロウソクを身体に落としたり、ムチで叩かれたり。
「ひょ、ひょえええ」
これ、所謂SMってやつだ。男の人が優位で、女の人が服従するタイプの。
たしかに私の知らない緊縛の世界だ。普通に生活してたら知らないに決まってる。
なんだか心拍数が早くなるのを自覚しながらも、ページを捲る手を止められない。
生唾を飲み込み、恍惚とした表情を浮かべる紙面上の女の人を見る。
……き、気持ちいいのかな。傍から見れば痛そうだけど女優さんの顔は全く嫌そうではない。むしろ、快感に溺れている。
っていうか、香澄はこういうのが好きなのかな。
ううん、でもSМなのはこれだけかもしれない。今時紙媒体なのも珍しいはずだから、スマホで見ているエッチなコンテンツは普通という可能性も。
「……いや、まあ」
だけど、あたしとしては香澄の性癖なんて露程興味もなかった。ああいや、興味がないは語弊があるか。
結局、未だに香澄がどうして一度はあたしの告白を断ったのかはわからない。
だけど、その時菘ちゃんに言われたことがある。
――香澄が望むことは受け入れられるか。
あたしはそれに首肯したし、あれは強がりでもなんでもなくあたしの本音だ。
それに、SМぐらいならあたしにも対応ができる。もし香澄が熟女好きだったら、あと何年かかるんだって話だ。
あたしはベッドに広げていたエッチな本を元の場所に戻しておいた。あたしが触るまでどんな風に収納されていたか覚えていなかったので適当だ。香澄が確認したらバレそう。
……これは?
あたしはベッドの下に、無機質な白い箱があるのを見つけた。
それを引っ張り出す。ご丁寧に鍵付きだ。何かを隠すのにおあつらえ向きの宝箱。
しかし、ちゃちなオモチャではないようで鍵なしで開けられる様子はない。
でも、鍵の場所知らないしなあ……。
勉強机あたりでも探そうかと思い、立ち上がった。瞬間、物音がして振り返る。
「……あっ」
「飛鳥お前、何してんだ?」
弥生飛鳥、絶体絶命。
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