第21話 作戦会議3
「差し当たっての目標は、菘と香澄が、それぞれ何を隠しているのかを暴く……でいいんだよな」
「だね。結局、あたしたちは何が理由で振られたのかハッキリとしてない。これじゃあ、いくら再チャレンジしようにも対策の立てようががない」
「……何か心当たりは?」
「ないない。あったら、香澄に直接突き付けてるよ」
埴輪ちゃんはやれやれと首を振る。
そのまま力なく、ぐでっと床に倒れた。
議論は完全に煮詰まっていた。いくら考えたところで、菘と香澄が閉口している限り何もわかることはない。
「菘と香澄が、その理由を話さないといけない状況を作るとか」
「まあ、あの二人は待ってたって話さないだろうからね」
埴輪ちゃんは寝転んでしまっているので、顔が見えない。机の下から声がした。
「まず、二人が何かしら秘密を持ってることは確定だ。なら、それを頑なに隠す理由はなんだ?」
「普通に考えたら、とてもじゃないけど言えないことなんじゃない?」
「……俺たち、本当は嫌われてるとか」
「それはないと思う……というか、思いたいな。それに、嫌いだったらそう言えばよくない? 隠してまで嫌いな相手と付き合い続けるとか、そんなことするかな」
しないだろうな。
香澄はともかく、菘に至ってはうちに泊まりこんできている。これで菘が俺のことを嫌っていたら、菘が完全におかしい奴になってしまう。
「隠しておかなきゃいけない理由かあ……」
身体を起こした埴輪ちゃんは、机にその身を委ねた。なんとも、無防備な雰囲気だ。香澄に見られたら殺されそう。
俺が菘と香澄が、菘の部屋で向かい合ってたら……。俺は香澄を屠る。そんなこと許されてはいけない。
醜い嫉妬だとしても……。
「うん? 嫉妬……」
そうだ、これだ。
「涼くん、どうしたの? さっきから難しい顔してると思ったら急に独り言で。いよいよおかしくなっちゃった?」
「よし、埴輪ちゃん」
俺は突飛もない思い付きを、さも名案のように語ることにする。
「う、うん。なになに、突然」
「付き合おう」
「え?」
「俺たちが付き合おう」
「……ごめん、ちょっと意味がわからないんだけど?」
埴輪ちゃんは困ったように眉をひそめる。
そりゃそうだ。お互いの想い人に振り向いてもらう方法を考えているところに、まるでちゃぶ台返しするかのような提案されればそんな顔もしてしまう。
……してしまうけど、そんな嫌そうな顔しないでほしい。
ちょっと傷ついた。いや、俺が悪いんだけどさ。
「説明を端折ったことは謝る。ちゃんと説明するから」
「う、うん。お願いね」
未だに顔を引き攣らせたまま、埴輪ちゃんは頷いた。
「なるほどね、ようは香澄と菘ちゃんの嫉妬心を煽ろうと」
俺の説明を受けた埴輪ちゃんは、やっとのことで相好を崩した。
「そうそう。そうすれば、嫌でもアクションを起こしそうなもんだろ」
俺の提案は簡単なもので、俺と埴輪ちゃんが疑似的に恋人になること。これだけだ。
幼馴染に振られた二人が慰めあう形で……と、それらしい理由もつけられる。
そして、そんな俺たちを見た菘と香澄は動揺するはずだ。というか、してもらわないと困る。そこに漬け込んで、真実を暴いてやろうというのが魂胆だ。
「もし、香澄と菘ちゃんが、普通にあたしたちを祝福してきたらどうするの? まあ、涼くんとなら別に絶対嫌ってわけじゃないけどさ」
「さっき鬼の形相してましたよね?」
「気のせい気のせい」
「そん時は適当に時間が経ったら別れましたーでいいだろ」
「涼くんはあたしのこと簡単に捨てるんだ」
「香澄のところに返すだけだ」
「上手いこと言いよって」
埴輪ちゃんは立ち上がり、俺の隣、引っ付くような距離に腰を下ろした。それから、うりうりと腕を小突かれる。
「こんな感じ?」
「えっと、何が?」
「だから、恋人のフリするんでしょ?」
「ああ……」
隣にちょこんと座った埴輪ちゃんは、菘よりも一回り身体が小さい。
……胸、もそうだがそもそも身長からして小柄だ。
対照的に、顔にはクリクリと大きな目。小動物的な可愛さがある。
……香澄は、なんでこんな可愛い子を振ったんだろう。いよいよもって謎だ。
「あ、でも本当に好きなられても困るよ?」
埴輪ちゃんは小首を傾げながらそんなことを言う。
これもう、俺じゃなきゃ落ちてるよ。
「ならないから。俺は菘一筋」
「かーっ、菘ちゃんは幸せものだあね」
「それを言うなら香澄だな。こんな可愛らしい幼馴染に好かれてんのに」
「ねー。飛鳥ちゃん超プリチーなのに」
「だなあ……」
同意すると、肩を思いっきり頭突かれた。
普通に痛い。香澄はこれに耐えてたのか。
「そこは否定するとこでしょ。全く、香澄といい涼くんといいツッコミが下手!」
埴輪ちゃんが可愛いことを、香澄が否定しないこと気づいてたんだな……。
「いや、事実を否定したところでなあ」
「だから!」
と、それからしばらくは埴輪ちゃんとどうでもいい話に興じていた。
色々事情はあるものの、埴輪ちゃんとなら恋人のフリの余裕だなあと感じた。
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