第20話 作戦会議2

「ごめんね。菘ちゃんを追い出す役目背負わせちゃって」

「ああでもしないと埴輪ちゃんが話せないだろ?」

「まあね。菘ちゃんには、あんまり聞かせたくはないかな」


 埴輪ちゃんは困ったように笑う。

 膝に置いてある手がせわしなく動いていた。落ち着かないのだろう。

 もちろん、それは俺と二人きりなことに対してではなく、香澄との現状について。いや、俺と二人きりが嫌な可能性も……。まあ、考えないでおこう。


「それにほら、俺たち状況が一緒だろ? なら結託したってバチは当たらないだろ」

「あたしは大丈夫だろうけど……。涼くんは、後で菘ちゃんに怒られるかもね」

「いや、なんで」

「なんでだろうねえ……」


 ニヤニヤとした笑みを向けられる。

 しかし、ひとまずそんな冗談を言う余裕はあるようでよかった。根詰めすぎて、死にそうな顔をしているわけでもない。

 ただ、目を赤くした名残が見える。昨日、俺たちと別れてから家で泣き腫らしたんだろう。

 そして、今日。居ても立っても居られなくなってうちに来た。


「ね、涼くんから見てさ、あたしたちってどうだった?」

「カップルかよ、早く付き合えって思ってた」

「なはは、やっぱり? あたしもそう思ってたんだよね。ま、結果的には自意識過剰だったんだけど」

「それなんだけど、本当にそうか?」

「んー?」


 埴輪ちゃんは首を傾げる。


「はっきり言って、香澄は埴輪ちゃんのこと好きだと思うんだよ」

「でもでも、私面と向かって振られたよ」

「そこだよ」

「へ?」

「香澄は、一言たりとも埴輪ちゃんのことが好きじゃないなんて言ってないだろ」


 ただひたすらに謝っていた。ただそれだけ。謝罪の一点張りで、他にはなんの要素も落としていない。

 

「それは……そうだけど。でも、流石に良いように考えすぎじゃない?」

「じゃあ、諦めるか?」


 俺の安易な挑発に、埴輪ちゃんはムッとしたような顔をする。

 

「いいよ、わかった。とりあえず、涼くんの言う通りに話を進めよ。それで、仮に香澄があたしのことを好きだとする。じゃあ、なんであたしは振られたんだろ」

「そこだよな……」


 自分で言っておいてなんだが、そこから先は完全に未知だ。というか、答えは香澄しか知らないのではないか。付き合いの長い埴輪ちゃんと、曲がりなりにも友人をしている俺が咄嗟に思い当たらないのだ。


「ていうか、それ菘ちゃんにも言えるよね」

「菘に?」

「うん。だって、菘ちゃんも涼くんに嫌いって言ってないんでしょ?」

「まあ、言われてないけど……。ていうか、嫌いだったら一緒に住まないだろ」

「……それが何よりの答えだと思うけどねえ」

「俺もそう思いたいよ。でも、俺もちゃんと振られてるわけで」


 いよいよ、何も分からなくなってきた。

 しかし、一つだけわかったことがある。それは、俺と埴輪ちゃんが全くもって同じ苦境に立たされているということだ。

 相手からの好意は感じるのに、いざ告白をして恋人になろうと提案すると断られる。

 この歪な状況に俺たちは身を置いていた。


「……香澄も菘ちゃんも、何考えてるんだろうね」

「ほんとうにな」


 顔を合わせて俺たちは笑った。そうでもしないと、やってられないのだ。

 ひとしきり笑いあった後で、埴輪ちゃんが手を差し出してくる。


「その手は?」

「握手しよ」

「……? いいけど」


 差し出された手を取る。菘よりも体温が高く、小さな手。

 

「共に同じ目標を目指す者として、これからもよろしくね」

「なるほど、そういうこと。ああ、よろしく」

「チーム飛鳥涼だね!」


 ……それはチャゲア〇ドアスカの、お薬やってた方の旧名義だからやめた方がいいと思う。

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