第19話 作戦会議1

 埴輪ちゃんが香澄に振られた翌日、今日は土曜日なので学校はない。

 俺には一緒に外出するような仲の友達は香澄しかない。しかし、昨日あんなことがあった手前香澄と遊ぼうとは流石にならない。 

 ということで、俺は菘と一緒に家にいた。

 何をするでもなく、二人で俺の部屋でダラダラとしているだけ。これはこれで幸せというものだ。幼馴染だから忘れがちだけど、こうして好きな女の子と自然に同じ時間を過ごせるのは、やはり恵まれているのだろう。

 

 そろそろ昼ごはんにするか、という話をしている時だった。

 インターホンが鳴り、来訪者を知らせる。外付けカメラの画面を見ると、意外なお客さんだった。


「飛鳥? 約束してたかしら」

「ううん、アポなしだね。あ、なにか予定あった?」

「それは大丈夫よ。上がって上がって」

「……うん。お邪魔はするんだけど、ここ涼くんの家だよね?」


 埴輪ちゃん、そのツッコミはごもっともである。

 ということで、うちにやって来たのは埴輪ちゃんだった。

 本人の言う通り、事前に知らされてはいない。本当に急に来た。


「お邪魔しますー。わー、知らない家の匂いだ」


 靴を並べながら埴輪ちゃんはすんすんと鼻をならしている。大丈夫? 臭くないよな?

 流石に三人で俺の部屋に入るのは手狭なので、リビングへ。

 菘はお茶を淹れに台所に消えた。


「ごめんね、菘ちゃんと二人っきりのところ邪魔しちゃって」

「いや、もう、ほんとにね」

「そこは、そんなことないよ、って言うところでしょ」

「ソンナコトナイヨ。でもまあ、実際埴輪ちゃんだから許せるものの、他の奴だったら追い返してただろうな」


 なんたって、この家は俺と菘の愛の巣なのだから。女の子はともかく、男は立ち入り禁止だ。この家に入るということは、菘の家に入ると同義。そう考えると妥当な処置だろう。


「おまたせ。はい、涼も」


 菘は人数分の紅茶を淹れて戻ってきた。俺と埴輪ちゃんは礼を言ってから口をつける。

 しばらく、無言の時間が続いた。

 何から話せばいいのか、わからないのだ。三人寄れば文殊の知恵とは大噓である。


「……あのあとね、香澄から電話あったの」


 静寂を破ったのは埴輪ちゃんだ。


「さっきは逃げてごめんって。……あたしはそんなこと気にしてないのにね。変なの」

「……香澄はそれだけ?」

「うん。ああでも、これからも仲良くはしたいって」

「なるほどな」


 俺の隣に座っている菘を見やる。菘は黙ったままだ。おそらく、この話題が続く限り、菘が自発的になにか言うことはない。

 なぜなら、香澄の行動や言動は菘そっくりだったのだ。

 香澄を擁護するにも、非難するにも、菘は全てブーメランとなって自分に返ってくる。

 なので、今回の一件において菘ははっきり言って戦力外だ。

 なんなら……。あまり、菘にこんなことは言いたくはない。けれど、席を外してもらったほうが話が円滑に進むのは間違いない。

 埴輪ちゃんも、香澄を責めることは菘を責めることと同じと理解している。だから、思うように心情を吐露できない。


「悪い、菘。俺、埴輪ちゃんと二人で話がしたい」


 だから、俺は正直にそう言った。

 俺の言葉を聞いた菘は、色んな感情が綯い交ぜになったような顔をする。

 残念がってるような、寂しがってるような、悔しがってるような。

 それら様々な表情を一巡させてから、


「わかった。そうしたら、私涼の部屋にいるわね」

「ん、あたしたちが移動したら良くない?」

「大丈夫、ここ使ってて」


 有無を言わさず、菘は立ち上がりリビングから出ていった。


「はーん、なるほどね」

「なにが?」

「菘ちゃんは、涼くんの部屋に入られたくないんだ」

「……そこまで汚くないけどなあ」

「そういうことじゃないよ」


 埴輪ちゃんは俺を揶揄うように笑って紅茶を口に含んだ。

 俺も埴輪ちゃんに倣って喉を潤して、本題に入る。

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