第14話 手と手を繋いで
本当に夜ご飯まで食べていった葵さんは、やっとのことで帰宅していった。
相も変わらず嵐のような人である。
今日はちゃんと別々に風呂に入り、今はアイスを食べながら部屋でまったりしていた。
コンコン、と部屋の扉がノックされる。俺が返事をする前に開いた。
「ねえ、涼。結局、これはなんだったの?」
俺の部屋を訪ねてくる人など一人しかいない。
風呂上がりで、肌をほんのりと朱に染めた菘が手に何か持ってこちらに近づいてきた。
それは、俺がさっきゴミ箱に捨てた葵さんからのプレゼントだ。
「おい、せっかく捨てたんだから拾ってくるなよ」
「でも、何が入ってるか気になるし……。それにいくらお母さんの頭がおかしいからって、中身を確認せずに捨てるのは流石に可哀想よ」
「それはそうだけど。中身は既に俺が確認した……って、菘は見てないのか」
「ええ。だから、開けていい?」
「いいよ。自分の母親に嫌気がさしてもいいならな」
「それはもう慣れたわ」
葵さんの信用とは。
包装は一度解かれているので、菘はすぐに中身と対面した。赤面でもするものとか思っていたが、そうでもなく菘は冷静だ。
食い入るようにパッケージを見つめている。
そんな穴が開くほど見たところで、書いてあるのは薄さ自慢だけだぞ?
「これって、薄い方がいいの? なんだか、やたらと0.01ミリなことを誇示してるんだけど」
てっきり、葵さんへの悪口が始まるのかと思った。しかし、予想に反して菘は、そんな質問をしてきた。
「まあ、一般的にはそうなんじゃないのか」
「どうして?」
「どうして、って。なんというか、隔てるものは薄いに越したことはないんだろ。多分」
使ったことないから知らんが。
「手を繋ぐときに、厚手の手袋があると悲しいみたいな感じ?」
「あってるけど、そんな可愛らしいものではないと思う」
「ふうん」
菘は箱を開けた。え、なんで?
そして、小分けされた黒光りする包装を取り出した。
全部で三つ。
「これだけしか入ってなくて、足りるの?」
「足りる足りないの基準がわからないけど……」
「その……。だから、一晩持つのかって話よ」
「人によるんじゃないでしょうかね」
「涼は?」
「お、俺?」
まあ、三回もやれば果てそうなもんだけど……。かと言って具体的な回数を菘に答えるのも恥ずかしい。
「さあ……。したことないからなんとも」
なので、正直にそう答えた。今更、菘に童貞を暴露したところでだし。
「てことは、足りない可能性もあると」
「まあ、可能性だけなら」
「わかったわ」
なにを理解したんだよ。
「ひとまず、これは私が預かっておくわね」
「いや、どうせ使わないんだし捨てとけよ」
「使わないの!?」
菘は目を見開いた。
「どこの誰と使うんだよ」
「え、え、でも。涼は私のこと好きなのよね?」
「え、うん」
「だったら、使うんじゃないの……?」
ううん?
いやでも、俺と菘は別に付き合っているわけでもなく、ただ俺の片想いなんだから……。
「いや、使わないだろ」
「……っ。そ、そう……。べ、別に涼がその気ならそれでもいいけど」
「その気もなにも、普通はそうだろ。だって、俺はお前のこと好きなんだし」
好きだからこそ、ちゃんと結ばれてからそういう行為には及びたい。
俺のその言葉に、菘は顔を真っ赤にしながら頷いた。
「じゃ、じゃあこれは捨てておくわね」
「おう、よろしく」
「そうよね。好きな相手となら、直接手を繋ぎたいものね。それと同じ、それと同じ」
と、ぼそぼそと呟きながら菘は部屋から出ていった。
……様子、変だったけど大丈夫だろうか。
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