第十二話 科学者

——《冒険者ギルド》——


 

 ここは冒険者ギルドの飲食エリア。その端に設置されている円形のテーブルを、ライ、サラ、エリック、そしてエリックのパーティーの駆け出し少年、パックが囲むように座り、スナックと飲み物を片手に、モンスターや冒険者の描かれたカードを眺めていた。

 今彼らはゲーム中。ルールに則って決められたカードを捨てていく。当然賭けを行なっているが、駆け出しの割合が高い為、最下位の者は参加者全員にメニューを一つ奢るという優しい内容だった。


「なあ・・・。」


 ライが気怠そうな雰囲気を醸し出しながら口を開く。現在彼が成績最下位。当然その表情は重たい。


「どうやったらモテるんだ?」


「急にどうしたお前。」


「いやさぁ・・・俺って自分で言うのもなんだけど実力あるだろ?だけどあんま女の方から寄ってきたらしないなって。」


「そもそもライのアニキは彼女が欲しいんですか?」


 パックが自分の手の中で、次出すカードを選びながらライに質問する。その顔立ちはサラよりも年下なため、まだ幼さを残している。


「わかってないなぁお前。俺は彼女が欲しいんじゃなくて、自分がモテているという優越感を味わいたいんだ。冒険者してるのに彼女なんか作ったらお互い大変だろ?」


「少なくともそんな考え方してるうちはモテやしねぇよ。」


「ですね。・・あ!私上がりました!」


「早っ!!」


 エリック、サラの順にカードを捨てていき、サラの手持ちのカードが無くなる。その最後に出されたカードに続くように、パックも連続でカードを出していく。


「オレも後ちょっとで上がれそうだな。こうなるとリーダーかライのアニキがサラさんに奢ることになるな。」


「おいおいもう勝った気でいるのか?勝負に油断は禁物だってしっかり駆け出しに教えとけよリーダー?」


「お前はその手にある俺の倍の数あるカードを処理してから粋がるんだな。」


 ライ、エリック、パックの順にカードを捨てていき、サラその様子を静かに眺めている。パックが上がり、終盤に差し掛かった時、エリックが口を開く。


「そういえばさっきの話だけどライ、女に飢えてるのか?サラちゃん。コイツと付き合ってあげれば?」


「えっ、えぇ?!!」


 急に話を振られた彼女は顔を赤くし,困惑する。


「お前人の話聞いてたか?それにサラにはうちの変人パーティーの中の唯一のオアシスだ。気軽に手ぇ出して良いわけないだろ。」


「そっ、そんな!私なんて別に!!」


 少々大袈裟だが急に褒められたことに更に困惑し、その頬を一層赤らめる。


「じゃあアニキのパーティーのネーチャンは?研究者の。」


「ああ!そうだあの美人はどうなんだよ?一緒に住んでんだろ?」


「一緒にって言うか、俺のパーティーは皆同じ家に住んでるんだよ。」


「私まだ他のパーティーの方とは会ったことないんですよね。ライさんから大体の事は聞いているのですが・・・どんな方なんですか?」


 サラが興味深そうに尋ねる。自分のまだ見ぬパーティーメンバーの話となれば当然興味が湧くのだろう。


「まず奴は科学者で、腕は大したもんだ。俺が今までクエストでちょくちょく使ってた魔道具もソイツが作ったものだ。」


「家の一室を研究室として使ってるんですよね?私は入ったことありませんが。」


 一つの足音が床をカツカツと鳴らしながら彼らに近づく。


「研究室の中の散らかりようと言ったらヤバイぜ?科学者の癖にガサツだからなアイツ。ロクな女じゃないことは間違いない。」


 足跡がライの真後ろでピタリと止まる。


「誰がガサツでロクでもないですって?」


「あぁん?」


 椅子の前脚を浮かして頭を仰け反らせ、声の無視を確かめる。

 そこには茶髪を短く切り揃え、肩にボストンバックを担いだ女が眉を歪めながらライを見下していた。


「....よおエレナ。どうしたんだそんなに怒って?可愛い顔が台無———」


ボスッ!!ガン!!


 エレナと呼ばれた女は肩に担いだバックを弧を描くようにライの頭に振り落とした。

 顔に直撃したライは重心を後ろに傾けていたため、そのまま椅子ごと後ろに倒れ、床に後頭部を打ちつける。


「久しぶり〜。元気してたー?エリックとパックと....見ない顔ね。新しい駆け出し?」


「ああ。それだけじゃないぜ。この子はなんと!お前らの新しいパーティーメンバーだ!」


「ほらサラ!このネーチャンがさっきから話してた!」


「わ、私!先日からパーティーに参加させていただいたサラ=ウィズルネットです!よ、よろしくお願いします!!」


「....えぇ!?パーティーに参加って私たちの!!?」


 挨拶と共に頭を下げたサラに驚く。


「宜しく!いやぁ、パーティーに女私だけだったから寂しかったのよね!ん?待てよ?」


 エレナは何かを思い付くサラを自分に寄せてライから一歩離れる。


「ねえ?帰って来たのって私だけ?アイツはまだなの?」


「ああ、今帰って来てるのはお前だけだ。」


「って事はずっと二人っきりだったって事?ねえサラちゃん?ライに何かされてない?何か嫌なことがあったなら言って。すぐに町の兵団に叩きつけてやるから。」


「誰がするか。」


 頭を押さえながら起き上がったライは倒れた椅子を立て直し、散らばった自分のカードを掻き集めるとまた座り直す。


「戻って来た瞬間にご挨拶な奴だな。」


「当たり前でしょ?それより何座り直してるのよ。さっさと家帰るわよ。」


「一人で帰れよ。」


「私鍵持ってくるの忘れたのよ。ほらさっさと立つ!」


 そう言ってエレナはライの襟首を掴むと強引に引っ張り、無理矢理立たせてギルドを出ようとする。


「おい!ふざけんな!まだ勝負は終わってないんだ!!」


「はい俺上がり。それじゃライ。今度なんか奢れよ。」


「嘘だろ!!?」


 自分が知らぬ間にゲームに負けていた事に驚き、手に持ったカードをバラバラと床に落とす。

 そんな事はお構い無しとエレナは引っ張る手を緩めずにライを引きずる。


「ほら。サラちゃん行くわよ?貴方の事とか私がいなかった時の事とか詳しく聞きたいし。」


「はい。今行きます。それでは。」


 サラもエリック達に挨拶をし,その二人についてギルドを出て行った。


「また一段と騒がしくなるな。」


「ですねぇ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今日もギルドに風が吹く マロンパン大魔王 @harukawa627

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ