第十一話 トレント
「耳を塞がなくても良いって言っただろ。」
「いや!だってマンドラゴラだぞ!叫び声聞いたら死ぬんだぞ!!」
エリックはようやく耳から手を離す。そんなに信用ならないなら自分だけ耳栓でも持ってこればよかったのに。
「俺の風魔法で俺たちの周囲に風の膜を張ってるんだ。周りの音を遮断するから叫び声を聞く心配もない。というか、サラ一回経験してるだろ。オーガの時に。」
サラとの最初のクエストの時、俺はオーガの視覚と聴覚を封じる為に、閃光を放ち爆音を発する魔道具を使った。その際にこれと同じ方法で、俺たちには音を聞こえないようにしていた。
「いえ・・すいません、反射的に塞いでしまって。」
「ま、良いけどな。とにかくこれで一匹。クエストで要求されている納品数は一匹だ。とりあえずクエストクリアだな。」
「どうする?帰るのか?この前帰ったら本当に俺がきた意味ないんだが。」
それは最初から言っている。今回のクエストは俺にとってヌルゲーすぎる。
まず『
「んー、とりあえずもう一、二匹欲しいな。売ったらかなり高いし、サラも一匹欲しくないか?魔法の触媒にうってつけだぞ?」
「私はまだマンドラゴラを扱える程の技量はないので、またの機会で結構です。」
「そっか。じゃあ後一匹捕まえたら帰るか。どんどん掘るゾォー!」
「けど魔伏の森ってそれなりに強いモンスターがいるんじゃないのか?」
「その時こそお前の出番だろ。」
「へいへい。その前にっ。」
俺は『
「おっし。それじゃあ次の獲れそうなところは——」
ドドドッバキ !!!
突然、遠くの方から地響きと木々をなぎ倒す音が聞こえる。それもその音はどうやらこちらに近づいて来ているようだ。
「・・・なんか来るぞ。用心しろ。」
「はい!」
「言われなくとも。」
即座に戦闘態勢に入った俺たちはその後の正体が出てくるのを確認する。
どうやら大木がこちらに近づいてきているようだ。
「・・・トレントか?」
「そうみたいだな。」
「トレント?」
トレントとは樹下を守る役割を持つ、木の姿をしたモンスターである。森を荒らす外敵を排除し、森を守るという。その姿はその場に生えている木の種類によって異なる。
「お前が乱暴なやり方でその辺掘り起こすからだろ。」
「えぇー。ちゃんと元に戻したぞ。」
「どうしますか?戦いますか?撤退しますか?」
「こっちから挑発した形だからなぁ・・・楽して稼ぐために来たんだし、戦う理由ないんだよなぁ。」
「じゃあ逃げ———」
「ガアアアァァァァァ!!!」
トレントはその木が横に裂け、口にようになった裂け目から声を出す。
すると辺りの地面が歪み、地中から巨大な根が触手のように何本も現れ、俺たちには襲いかかってきた。
「キャッ!」
「うおっ!大丈夫かサラ!」
サラの方へ行った根を俺が風で切り落とす。
トレントはそれでも辺りの木々をなぎ倒しながらこちらに攻撃を仕掛ける。
「森を守ってるんじゃないのかよ!?どう考えても俺より被害大きいぞ!!」
「なあ!やっぱ戦おうぜ!あっちもやる気だし、このまま何もせずに帰るのも面白くないだろ!!」
「・・・勝手にしろ。」
「ああ、勝手にやらせてもらう。」
エリックは背中から大剣を抜き、迫り来る根を切り落とす。
「あの!手伝わなくても良いんですか?」
「いいんじゃないか?無理やりついてきたんだからこれぐらいさしても。」
「でも!今回は私も何もしてないですし!」
トレントの攻撃が一旦エリックに集中したため、余裕できて話している俺たちにエリックが叫んで話しかける。
「なあ!このトレントなんか強くないか!?俺が前戦った奴はこんなに強くなかったぞ!!」
「魔伏の森だぞ。他の森と比べて魔力が充実してるからそりゃトレントも強く成長する。」
「頼むちょっと手伝って!!」
「ガンバレー!」
「オイッ!!!」
なんだかんだ言いながらもトレントの攻撃を一人で凌いでいるため、奴の実力自体は大したものだ。
「ハァ。しゃーない手伝うか。サラ。トレントに向かってエリックごと『
「頼む。じゃねーよ!!!」
「大丈夫。アイツはそれなりに強いから直前で避ける。アイツを信じろ。」
「わ、わかりました。」
「わかっちゃダメェ!!」
サラが魔法の詠唱を始める。すると彼女の周りに以前と同じように五つの火の玉が出現する。
「『
その玉はトレントに向かって一直線に飛んでいき、その直線上にいたエリックも必然的に巻き込んで爆発した。
「・・・あのぉ、本当にエリックさんごとあってもよかったのでしょうか・・・。」
「お!お前もなんかしてから考えるタイプか。俺もだよ。とりあえず爆煙が晴れてから考えよう。」
俺は風を起こし、爆煙を吹き飛ばし状況を確認した。
そこにはまだトレントが立っており、しかしさっきの攻撃は結構効いた様子だった。
「おお。後は楽に倒せそうだな。エリックの犠牲は無駄にならずに済みそうだな。」
「だぁれが犠牲だコラ!!」
よく見るとトレントの目の前にはエリックが地面に伏せていた。エリックは立ち上がると剣を再び構え、トレント目掛けて走り出す。
トレントの根が8本、エリックに向かって攻撃する。それを奴は自慢の大剣で斬るのではなく逸らし、木の根を全て一方向に集まる。
「フンッ!!」
その集めた根を大剣で全て斬り落とす。自分の根が全て斬り落とされたトレント少し動揺している。その隙を奴は見逃さない。
「これでトドメだ!!!」
奴の大剣がトレントの胴体部分を捉え、横真っ二つに切り裂く。
「ギガガァ・・。」
切り捨てられたトレントは最後の呻き声を上げ、その体は急速に崩れ始め、土の一部となる。
「倒れてもなお、森の一部となって守り続けるのですね。」
「まあアイツがなぎ倒した木の数の方が大きけどな。」
そうこう話していると大剣を肩に担ぎながらエリックがこっちに歩いてくる。
「よぉ。やってくれたなテメェ。」
「チッ。無事で良かったよエリック。どうなるかとヒヤヒヤしたんだぜ。」
「嘘つくんじゃねえ!」
「あの、私もすいません。エリックさんごと打ってしまって。」
「いやいいんだ。いいんだけどこれからコイツのいうことは聞いちゃダメだぞ。」
エリックは一仕事終えた後のように息を吐き、大剣を背中に担ぎ直した。
「で、どうするんだ?マンドラゴラまた探すのか?」
「いや、なんかもういいや今日は。帰ろっか。」
「ですね。」
「それがいい。モンスター倒してやったんだからなんか奢れよ。」
「あれはほとんどサラのお陰だろ。ていうかそもそも俺たちは戦う必要なかったんだ。」
「いいじゃねえかケチだなお前。」
俺たちはそうやって下らない話をしながら、町へと帰還した。
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