序章2
——《洞窟内》——
その洞窟を入ってすぐの開けた場に、村を襲ったモンスター達は潜んでいた。
「ハッハッハ。あんな小さな村の割にはかなり上玉が多かったな!」
「はぁい。それにいいストレス発散にもなりましたよぉ。なぁ、お前もそぉ思うだろぉ?」
「グルルルル!ゴギャァ!」
髪をオールバックにした老人のような男がもう一人部下らしき肌の紫の人型のモンスターに話しかける。そのモンスターはその言葉に同意すると横に鎖で繋がれている獣のモンスターに話しかけた。
そしてそいつらの奥には鉄格子で出来た牢があり、その中にまだ若い女や子供が十数人、手足を縛られて閉じ込められている。
「しかしですなぁ。こぉんなのがホントぉに売れるのですかぁ?」
ガン!
「ヒィッ!!」
紫肌のモンスターが鉄格子を蹴ると、その音で牢の中の女の子が怯えて悲鳴を上げる。
「なんだぁ!!なんかぁ文句あるのかぁ!!?」
その怒鳴り声に女の子は泣き出してしまう。周りの女性が庇うように前に出て女の子を慰める。彼女達の目にも涙が浮かんでいる。
「チッ。ほんとぉにこんなのが売れるんですかぁい?」
「ああ。奴隷として売ればそれなりの額にはなるし、ある程度の知性を持つモンスターには交渉材料として使える。”あの方”の下に就かせるためのな。」
ザッ
洞窟の入り口付近から物音が聞こえた。見ると見張りをさせていたモンスターの一匹がこちらに近づいてきている。このモンスターの体型は人型で体格はかなり大きい。
「なんだぁ?見張りの交代かぁ?」
「あと15分で城までの”
男の言葉に反応したそのモンスターは頭を下げる。しかしお辞儀をしたと思いきや、そのまま頭を深く下げ、最終的に地面に顔をつけてそのままバタッと倒れてしまう。
「!?」
「それを聞いて安心したよ。この場所を見つけることが出来て本当によかった。15分もあれば十分お前達を殲滅できる。」
その倒れて地面に伏しているモンスターの足元には一人の男が立っていた。
倒れたモンスターの背中には縦一直線に刃物のようなもので切り裂かれた傷があり、そこからドクドクと血が流れ出ている。
「おいおい!!いくらなんでも速すぎやしねえかぁ!?村から結構離れてるんだぞぉ!!」
「・・・・見たところによると騎士ではなさそうだな。冒険者か?お前。まさかここまで一人で来たのか?」
「ああ、まあ暫くすれば他の奴らもここに来る。ここに来るまでに幾つか目印を落としてきたからな。それよりお前、見たところによると人間に見えるが、なぜこんなことをしている?」
この中では上の立場であろうオールバックの男に指を指して問いかける。するとその男は口元を歪ませ、クスクスと笑いながら顔を手で覆った。
「ああこれは失敬。立場じゃあこの姿の方が都合がいいんだ。奴隷商売だったり人の目を群れから遠ざけたりするのにね。」
男が手を顔から離す。そこには黄色い大きな目に、口元は大きく裂け、肌色は蒼白した不気味な顔があった。
「これが私の正体です。まあ他のモンスターと接する時はなるべくこの姿で———」
グサッ!
話をしていたそのモンスターの眉間に一本の短剣が突き刺さる。投げられたその剣は刀身の半分ほどが見えなくなっている。
「エ・・?ガッ・・?」
その声を最後にそのモンスターは背中から倒れ、ピクピクと数秒間痙攣した後やがて動かなくなる。
「知ってるよ、そんなこと最初から。お前のブサイク顔は変化程度でごまかせないよ。」
投げられた短剣は俺の腰に着けていたものだ。知性の高いモンスターが人の姿をしているのは珍しいことではない。
「テ、テメェ!!もう許さねぇ!!まさか数がこれだけだと思ってんじゃねぇよなぁ!!」
今倒れた後ろにいたモンスターが短剣を回収しに近づく俺にそう吐きかける。俺が近づくと同時に後ろへと後ずさるソイツの言葉を無視して、俺は白目を向いて男の眉間から短剣を抜き取る。
すると何やら洞窟の奥の方からガヤガヤと騒がしい音が聞こえてきた。
「グルルル!グウゥ!!」
「ウー。アー。」
「ナンダ!?ナンダナンダ!?」
洞窟の暗闇からは魔獣や人型のモンスター達がゾロゾロと二十体ほど湧き出てくる。なるほど、今会ったコイツら達も捕まえた人間の三原だったのか。まあ、村を襲った時点でこれぐらいは想定していた。
「お前たち!!コイツを殺せ!!今コイツは一人だけだ!!!囲み込んでズタズタに引き裂いてやれ!!!」
その声に焚きつけられるように情報を察したモンスター達は雄叫びを上げる。
洞窟に取り付けられている牢屋を見ると、村人達が不安そうに、怯えながらこちらを見ている。助けが来たと分かった瞬間は希望が見えたと思い目に光が宿っていたが、俺が一人で来たことや敵がこれだけいることが分かると安心は出来ないだろう。
「安心してください。目を瞑っている間に終わりますよ。すぐそこから出しますので——」
その言葉を言い終わる前に一匹の魔獣がこちらに猛スピードで走り寄り、俺目掛けてよだれを垂らしながら襲いかかる。
その鋭い歯は俺の首筋を的確に捉え、頸椎ごと噛み砕く・・・ように見えたが、その口何も噛み砕くことなく閉じられ、俺に飛びついた体はそのまま俺をすり抜ける。
「な!!?なんでぇ!!?」
『カタリーナ』。この魔法の発動中は俺の体を気体化することが出来る。この気体は他と混ざることはなく、この状態の俺には一切の攻撃は通用しない。
俺は魔獣が俺の身体をすり抜ける際に手に持った短剣でその腹を引き裂く。
「グガァッ・・・。」
地面に着地できずに転がった魔獣もまた、少し経つと動かなくなった。
「さっきの奴の話によると、あまりここに長居するわけにはいかないな。」
目の前で不可解な現象が起きたことで周りのモンスター達は動揺する。魔物は警戒を増し、こちらに威嚇しながらも、先程のように近づいては来ない。
手を前に掲げ魔力を高める。俺の魔力に同調して周りの空気が淀み、流れ、一つの形へと姿を変える。文字通り空気が静かに震える。
モンスター共も俺の周りに流れる魔力と”風”に気がついた。
「オォイっ!!何してる!!さっさとコイツを殺せ!!」
最初からいた男が他のモンスターに命令するが、警戒してか一向に動こうとしない。
ゴオオォォ!
先ほどまで静かだった流れがいきなり勢いを増し、洞窟内に轟音を轟かせる。俺を中心に突風が吹き荒れ、踏ん張りの足りないモンスター達は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「・・・なぁ!?分かったぁ!降参するよぉ!!俺らはもう住処に戻るから!!!」
先ほどまで乱暴な態度を取っていた男は急に態度を変え、命乞いし出す。だが、見逃す気はない。
「そうだぁ!!金もあるぞぉ!!なんなら俺だけでもいぃ!!俺の命一つなんて殺してもたいして変わら——」
「ああ、さっきも言いましたが目を閉じていてください。結構グロテスクなので。」
モンスターを無視して俺は囚われた人たちに話しかける。その言葉を聞いた女性達は子供の目を手で覆い、自分も硬く目を瞑る。
周りに吹き荒れていた風が俺の掌に収束する。今先ほどまで吹き荒れていた風は止み、空間に静寂が訪れる。攻撃の手順は全て整った。
それを察した男は説得を放棄し、乱暴な言葉を吐き出す。
「クソガァ!!人間風情ガァ!俺はジーディア様の部下だぞぉ!!こんなことをしてただで済むと思——」
「『ガルダ』。」
ブュガガガッッ!!
俺が腕を振ると同時に周りに烈風が吹き荒れる。その風はモンスターだけを正確に細かく切り刻み、それ以外の物体にはかすり傷一つ残さない。ただ敵のみを排除する。
風は止み、また静寂が訪れた時、辺りにはモンスターだった残骸のみが転がっていた。
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