今日もギルドに風が吹く
マロンパン大魔王
序章1
朝目が覚めると、窓のカーテンの隙間から日の光が目に差し込む。唸り声を上げながら背伸びをして、寝癖のついた頭をボサボサと掻きながら、階段を降りてリビングへと足を運ぶ。
「おはよぉ。」
挨拶をしたが返事が返ってくることはない。この家に同居している俺のパーティー2人は、今里帰り中でこの家にいない。
「ああ、そうか。」
いつもなら俺よりも早く起き、その日の当番の奴が台所で飯を作っている。アイツらがいなくなると静かで気楽に過ごせると思ったが、いざいなくなるとどこか寂しい。
「・・・ギルドに行くか。」
1人で暮らしていると朝飯を作る気にならない。俺はギルドの飲食エリアで朝飯を済ませようと思い、ボサボサの髪を直して装備を整え、家を出た。
——《冒険者ギルド》——
「よっしゃ!」
今日は運が良い。俺の手には今、一枚の依頼書がある。
ギルドに着いた時、時刻は8:30。ちょうど掲示板にクエストの依頼書が貼り出される時間だ。普段ならわざわざ貼り出した直後に確認しないが、今日は貼り出された依頼書に目を通した。
「おお、ライ!機嫌がいいな。なんかいいことあったのか?」
飲食エリアで機嫌よく朝飯を食べている俺を見た他の冒険者が話しかけてくる。
「ああ!見ろよこれ!さっきたまたま確保できたんだ。」
「なになに・・・【新しく発見されたダンジョンの攻略】?」
「ダンジョンの攻略となれば宝はもちろん調査報酬も貰えるからな。良い小遣い稼ぎを見つけたよ。ごちそうさん!」
朝飯を食べ終わり、俺はギルドを後にするべく外に出る。ダンジョン攻略となれば色々準備が必要だ。町でそれらを整え、ついでに家のアイツの研究室からいくつか魔道具を拝借しよう。
「ん?」
ギルドを出ると向こうから誰かが走ってくるのが見える。ある程度近づくとその人物が中年の男性で、農民のような格好をしている。そして体に傷を負い、流血しているのがわかる。
その男は俺に気づくと深刻そうな顔で俺のもとまで走り寄り、しがみついた。
「助けてくれ!俺の村がっ!モンスターどもに・・・・!!!」
「!?」
「俺の娘も・・・それだけじゃない!若い女はみんな連れて行かれたんだ!!抵抗したものは・・・殺されて・・・・。」
「わかった。詳しく話を聞きますんで中へ。」
負傷した男の肩を担ぎ上げ、ギルド内へ入る。入ってきた俺たちの様子を見て、冒険者達がなんだなんだと騒ぐ。それに気付いた受付嬢のルナさんがすぐさま俺たちに駆け寄る。
「どうしたんですか!?いったい!!」
「この人の村がモンスターに襲われたらしいです。とりあえず早く医務室に。」
「は、はい。」
ルナさんはギルド専属の医者を呼びに行き、話を聞いた冒険者達は男を医務室に運ぶのを手伝う。
医務室のベッドに運び終えると、俺たちは村でなにあったのかを聞き出す。その間に医者は男の傷の手当てをしている。
「まず村の場所を。それで詳しくなにがあったのかを。落ち着いて。」
「タヤマ村・・・この町の西にある・・・・き、昨日の夜・・・村の外・・・から物音が聞こえて・・・家を出ると突然・・・・モンスター共が襲って・・・・ウゥ・・・。」
その光景を思い出したのか、男は目を閉じ頭を抱えながら項垂れる。
「タヤマ村?地図ないか?」
「その村なら知ってるぞ!前に近くを通ったことがある!」
「ここから結構遠いぞ!」
「馬車手配しろ!!」
冒険者達は村を地図で確認すると、装備を整えようとする者や馬車を手配する者が部屋を出ていく。けど昨日の夜に襲われたのなら既に村を離れている可能性が高い。だが村の規模から見て、若い女を多く連れて行くならばまだそう遠くには行っていないはずだ。
「俺が先に行く。お前達は馬車が手配でき次第向かってくれ。」
「1人で行く気か?相手は群れだぞ?」
「人を拐うってことは食料目的か繁殖目的のオークがゴブリンだろ。その辺どうだったか分かりますか?ゴブリンは子供サイズ、オークは俺らの同じサイズの人型のモンスターだ。」
「・・・いや・・分からない・・・周りが暗かったから・・・でも人型の奴はいた!子供サイズじゃない!!獣みたいなモンスターも!」
話を聞く限りゴブリンではなさそうだ。ホフゴブリンなどの大型の種はいるが、大抵そいつらは普通のゴブリンの群れを従えている。獣のモンスターがいたとなるとオークかどうかも怪しくなってきた。
「・・・とりあえず俺は先に行く。そっちの方が早いからな。」
「・・・わかったよ。無茶はするなよ。」
「誰に言っている。俺はこのギルド最強だ。」
すぐに村へと向かわなければ!再度ギルドを後にした俺は、そのまま町を出て地図を見ながらタヤマ村へと走る。
———
——
—
-
——《タヤマ村》——
辿り着いた村は、建造物は壊され作物は荒らされていた。鼻につく匂いで周りを見渡せば、至る所に村人と思われる人たちの遺体が転がっていた。
「・・・ひどいな・・。」
とにかくモンスター共の痕跡を探さなければ!いや、もしかしたら生存者がいるかもしれない。
そう考えながら村の中を歩き回るが、生存者は見当たらず、あるのは遺体だけだった。
先に行くと威勢よく言ったものもこの惨状を見れば当然心が痛む。この場に一人であることを心細く感じてしまう。誰か一人でもおぶって連れてくるべきだったか・・。
今更考えても仕方ない。俺は地面に手をかざし、また魔法を発動する。
「『
手をかざした地面の土がボコォと盛り上がり、中から2本の根っこが現れる。その二本の根は互いに螺旋を描くように絡まり合い、やがて一本の長い槍の形状へと変化する。
俺はその木の槍を地面から引き抜き、再び思いっきり地面に差し込んだ。その槍を通して俺は当たり一体の地面の状況を探知できる。足跡、魔力の痕跡、今現在動いている生き物の大雑把な特徴。範囲は半径290m程度。
これは恐らく土属性に位置する。詳しくは俺にもよく分からない。
感覚を研ぎ澄ます。群れならばそれなりに大きな痕跡が残っているはず。その痕跡を辿れば俺の速さなら追いつける。
「・・・見つけた。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます