第五話 戦闘開始
「ん?どうしたんだ?」
彼はいまだに茂みの中で固まっている私の顔を覗き込んだ。
「・・・あー。なるほどね。」
「え・・・・。」
「いや、よくあるんだ。駆け出しがモンスターの討伐を始めてみてショックを受けるの。結構グロテスクだしな。」
「・・すいません・・。」
「いや大丈夫だって。初めはみんなそんなもんだから。時期に慣れていくと思うぜ。」
「・・・・ライさんも最初はそうだったんですか?」
「いやぁどうだったかなぁ。でも気持ち悪いくらいには感じてたと思う。」
「そうなんですか。」
「どうする?中にはまだたくさんいると思うけど。なんなら外で見張りでもしとくか?」
「・・・・いえ、行きます。行かせてください。」
確かに少し怖く感じたが、こんな初めから立ち止まってはいけない。
「・・・・よし!なら入るか!」
オーク二体の死骸を通り過ぎ、ライさんを先頭に私たちはダンジョンの中へと入っていった。
——《ダンジョン内部》——
「結果でかいな。こりゃわざわざ依頼出してまで取り返したい訳だ。結構良い宝が眠ってるかもしれないな。」
石造りの道を松明に火をつけて奥へと進む。その道幅は思っていたよりもかなり広い。依頼書によれば、一度攻略したダンジョンなので、罠は全て外されており分かれ道に遭遇した際は、よく見ると印が付けられており、ダンジョン最深部まで楽に進めるらしい。
しかし私たちの依頼はオークの群れの殲滅なため、分かれ道の一つ一つをオークが潜んでいないか全て確認する。こうすれば通り過ぎた道から敵が湧き出て、後ろから襲われる心配もなるなるらしい。
「オークいねえなぁ。」
私たちがダンジョンに入ってからはまだ一体も敵に遭遇していない。入り口の見張りや、オークが散らかした残飯や糞があることから、ここに群れがあることは間違いない。
「ここまでいないとなると・・今は群れで狩に出かけているか、いるとするならば最深部だな。」
私たちはそのまま一度も会敵することなくダンジョンを進むと、奥から微かに明かりが見え、その場所が広い広間であることが分かった。そしてそこからは複数のモンスターの声らしき物音が聴こえる。
「ここが最深部か。サラ、俺の半径5mいないから離れるなよ。」
そういうと彼は広間の入り口まで行き、気づかれないように顔だけを出して中の様子を確認した。そして私も覗いてみるように促した。
「・・・・!!」
私たちが来た通路の先は、下に長い広い空間になっており、部屋の側面に螺旋状に設置された石階段を下りると、そこは大きな広間になっていた。
そこには数十体のオークが床に座り、酒を飲み肉を食らいながら宴をしていた。その周りには明らかに人から奪ったであろう衣服や宝石類などが転がっている。もしかしたらあの肉は・・・・。そんな考えが一瞬頭を横切る。
何よりも驚いたのはそのオーク達の中心を陣取って鎮座する別のモンスターだ。
そのモンスターは私の三倍はあるであろう巨体で、皮膚は赤黒く、そのこめかみには左右に禍々しいツノが生えていた。
「本当にいたよオーガ。オーガの討伐自体は依頼書に書いてなかったが、討伐すれば追加報酬が貰える。こりゃラッキーだったな。」
などと彼は呑気なことを口にしている。対する私は初めて見る巨大モンスターの迫力に気圧され、またもや固まってしまっている。
「おい大丈夫か?安心しろ。オーガくらい俺は倒せる。本当は駆け出しのお前にもモンスターを一、二体暗い倒させたかったんだが、今回は時間も惜しいし効率的に潰す。」
そう言って彼は腰に着けたバックから何かを取り出す。それは蓋がされ、中には液体と手のひらに収まるほどの小さな赤い球体が四粒入っていた。
「これは魔法道具だ。知人の研究室から勝手に拝借した。今回はこれを使う。作戦は———」
————
———
——
—
酒や肉を食い散らかしながら歌い、踊るオーク達の頭上から何やら石のようなものが数個ほど落ちてきた。
オーク達は天井の石が欠けたのだろうと気にしてはいなかったが、次の瞬間——
ドオオオォォォォン!!!!!
激しい爆音がダンジョン内に響き渡る。先程彼が投げ入れた球体が爆発したのだ。あの爆発の威力なら、近くにいたオークはひとたまりもないだろう。
「特別な液体から出して強い衝撃を与えると爆発する魔石。小さい質量でどれだけの威力を出せるかって研究していたが・・・・アイツとんでもないもの作ってたんだな。」
爆発によって舞い上がった砂煙によって、下のフロアがどうなったのかは判断がつかない。
「えーとアイツは死んでるし、アイツはまだ息があるな。あ、死んだ。アイツとアイツも死んでるな。」
「わかるんですか?」
「ああまあな。しかし運がいいな。今の爆発で奴らは全部息絶えた——」
「グオガアアァァァァァ!!!!!」
突如雄叫びがダンジョン内を揺らす。突然の出来事に私耳を塞ぎ、一瞬蹲ってしまう。
「ヒィ!?」
「あいつ以外はな。」
下のフロアを覗き込むと、そこには殆ど無傷のオーガが血走った目でこちらを睨みつけていた。
「流石にこんくらいじゃ駄目か。サラ、準備していろ。」
「は、はい!!」
オーガは壁に立てかけられていた棍棒のようなものを持ち、下のフロアから勢いよく階段へと飛び乗り、そのまま私たちのいる通路の入り口まで走り、近づいてくる。
「グオオオォォォォォォ!!!!!」
「じゃっ、戦闘を始めよう。」
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