第四話 出発
「・・・・ん?」
私が話しかけたことに反応し、彼はこちらを向いた。
少し緑色の混じった黒髪の短髪で、身長は170cm後半くらいだろうか。中々整った顔立ちをしている。防具の類はあまり身につけておらず、持ち物は腰に着けたバックと短剣のみだ。
先ほどまで土下座しようとしていたため、床に正座したのを立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる。
「なんだ?・・・見ない顔だな?駆け出しか?」
「この方は今日冒険者になったサラさんです。」
「お!やっぱりか。で、どうした?まさか俺のクエストに同行してくれるのか?」
彼は少し冗談交じりに尋ねてきた。さすがに今日冒険者になった私がクエストに同行するとは思っていないようだ。だが。
「はい。その・・・私も一緒にクエストに連れて行ってください!」
「えぇ!!」
「うぉっ!まじかい。」
私の言葉に男性と受付嬢さんは驚く。
「待ってください!この難易度のクエストはまだ貴方にははや——」
「お前、名前は?」
「サラ=ウィズルネットです。」
「職業は?」
「魔法使いです。」
「ふむ。ちなみになんで俺のクエストに同行しようと思ったのかな?」
受付嬢さんの言葉を遮った彼は、面接官のように私に質問を投げかける。
「あの・・・私今お金がなくて・・・今日泊まる場所がないどころか、これからの生活も危ういんです。」
「あ!だったらこの施設に私の泊まってる部屋があるから少しの間そこに———」
「君の気持ちは良おぉぉく分かるよ。君の同行を認めよう。さあ!ここのクエスト参加者リストにサインを!!」
「は、はい。」
クエスト同行者が見つかった途端、今までの様子は嘘のようにテンション上げた彼に勧められるまま、私は依頼書にサインをした。
「・・・よし!お姉さん、それでは早急にクエスト許可証を!!」
「・・・ねえ貴方?本当に良いの?このクエスト、あなたにとってはまだオークですら厳しいでしょうに。このオークの群れ、まだはっきり確認されてないけどオーガが従えてるかもしれないのよ?」
「・・・・・・」
どうしよう・・・・。そこまで言われたらなんだか不安になってきた。でもサインまでした以上今更やめるなんて言えないし・・・・。
「任せてくださいよ。俺がいれば一人くらい大丈夫ですよ。彼女を無傷でここに連れ帰ります。もちろん俺も。」
「・・・・わかりました。では許可証を発行します。その代わり、この子に何かあったら許しませんよ?」
「了解しました。」
彼は発行された許可証を手にとり、もう片方の手で私の手を掴み、ギルドの出口を抜けて町の入り口の門の方角へと歩き出した。
——《町の外》——
ダンジョンまでの道中。あたりは夕焼けによりオレンジ色に染まっている。私は流石に何も防具を身につけていないのは危ないということで、彼が身につけていた鎖帷子を貸してもらった。サイズが明らかに大きくてブカブカだ。
「ま、前衛じゃないからあまり派手には動かないし、命には変えられないだろ。」
「ありがとうございます。しかし、あなたは・・・・えーと・・。」
「ん?ああ俺の名前?俺はライ=アルレイド。よろしくな。」
「よろしくお願いします。改めて私はサラ=ウィズルネットです。それでアルレイドさん。」
「ライでいいぞ。俺もサラって呼ぶし。」
「わかりました。ライさん、貴方は前衛ですよね?装備なしでも大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫。くらわなければいいだけだし。」
この人はどれほどの実力の持ち主なのだろうか。受付嬢さんが駆け出しの私が同行することを認めたということは、やはりかなりの実力者なのだろうか?
「いやぁ、にしても助かったよ。明日の朝までに大家に金払わないと家追い出されるんだよね。」
「なんでそんなことになっちゃったんですか?」
「いやさ、俺がいつもパーティ組んでるやつが今里帰りしててさ、だから一人でダンジョン行ったんだよ。それで罠外しの魔法も使わずに宝箱開けちゃってドカン!2週間ぐらい病院に入院してたんだ。」
「それは気の毒でしたね。」
「それだけじゃないんだよ。そのダンジョンの宝は爆発と一緒に粉々になってさ。歴史的価値があるから損害賠償請求されたんだよ。」
「うわぁ・・・・。」
「それと入院費のおかげで懐すっからかんになったと思ったら今度は家に帰ると大家が「家から出て行け!!」って怒鳴り散らしてくるんだよ。そういえば先月と今月の家賃払ってなくてさ。よく考えれば先々月の家賃も払ってなかったんだ。」
「なんというか・・・ご愁傷様です。」
正直殆どが自業自得な気がするが、その不幸さには同情してしまう。だがそれとは別に、この人のクエストに同行したのはもしかしたらとんでもない間違いだったのかもしれないと今更ながら思い始めた。
その後は私が冒険者になろうとしたキッカケを話したり、使える魔法の種類を言ってこれからの作戦を考えたり、余った時間は些細なことについて話をしながら、私たちはダンジョンまでの道中を歩いた。
——ライさん・・・最初は変な人だと思ったけど、悪い人ではなさそうですね。
——《ダンジョン前》——
草木に隠れながらダンジョン入り口の様子を見ると、そこには左右に長槍を持ち、簡単な防具を着たオーク二体が見張りをしていた。
私はバックから村の本を参考に作り上げたステッキを取り出し構え、ライさんに判断を仰いだ。
「どうしますか?」
「まあ見てな。どうせ中にはもっと数がいるだろうし、騒がれても面倒だ。チャチャっと終わらすよ。」
そう言って彼は腰に付けたナイフに手を添えた。
次の瞬間、彼は目にも止まらぬ速さで見張りをしている片方のオークに向かって走り出した。
「グア?ググギャガ!!!?」
「グガ!?」
慣れた手つきで片方のオークの喉にナイフを突き刺し、そのまま下へと滑らせて腹を切り開いた。
「ガア———」
それを見たもう片方のオークが大声を上げ、中にいる仲間へと知らせようとした時、彼はさっき切り開いたオークの手から長槍を取り上げてもう片方のオークの眉間に目掛けて投擲した。
「ギヤ!!?」
眉間に槍先が突き刺さったオークはそのまま後ろ向きに倒れ、手足がピクピクと痙攣している。
彼はそのオークに近づき、刺さった長槍を引き抜いてもう一度突き刺した。
「ゥゥッ・・・。」
オークはもう一度声にならないような短い呻き声を上げその後ピクリとも動かなくなった。
ほんの数秒でこれをやり切った彼は、息一つ乱れておらず、返り血も殆ど浴びてはいなかった。
「おーい。もう出てきてもいいぞ。」
「・・・・・・。」
目の前で起こった一瞬の出来事に私の頭はついていかず、暫くの間絶句していた。
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