第4話 両親

 目が覚めるともう10時だった。

 のろのろとベッドから這い出してコタツに入る。


 …電話しよ…


 仕方なく化粧をして身支度を整え、画像に万が一映りそうな部分も整理整頓した。いつもの姿なんて見せたら、両親が嘆かわしく思うかもしれないからだ。

 身支度を済ませて、携帯から実家に電話すると両親は不在だった。

(もう、せっかく電話してやったのに…。)と自分がやっと決心して電話をしたのに、肩透かしを喰らってちょっとがっかりした様な、ちょっと安心した様な気持ちだった。

 ちょっとの間ぼーっと空(くう)を見つめ、せっかく身支度も整えた事だし、思い切って今度は母親の携帯に電話をする事にした。


 呼び出し音を聴きながら(なんて話そうか…)と考えていたら、母親が陽気な声で「七々美ちゃん?心配して電話してくれたの?」と言って電話に出た。

(七々美ちゃん??)と思わぬ陽気さに戸惑っていると、「七々美ちゃんのおかげで、お母さん達とっても楽しませてもらってるの!」「ほんと、ありがとうね!」ホログラムで映る母親の姿はいつもとは違う、どう見てもアウトドアの防寒着の格好だ…。

(???)私が絶句して返事を返せないでいると母親が続けた。

「お母さん達ね、今、釧路湿原にいるの。カヌー下り、冬もやってるんだって。そのあと丹頂鶴の舞を見るのよ!すごいわぁ…。」

「まだこんなに自然が残ってる場所があるなんて…。昔、お母さんが言ってみたいって言ってたのを覚えててくれたのね!」「夜はいよいよ星降るリゾートよ!」「スイートルームだなんて、初めて泊まるからどんななのか楽しみで、眠れそうにないわよ。」

「それに、運転手付きの車まで用意してくれるなんて、いったいいくら使ったの?」


 (??????)

 なんの話しなんだか、全く身に覚えがない…。

 まだ、私がなんの話しだかさっぱり飲み込めないでいた。

(なんだろう、なんだろう…?私、なんかしたっけ?)

「お父さんもね…、」と続けようとしたが、遠くで父親のものの声がした。


「ぁ…あの、おかぁさん…」(私じゃない…)って言おうとして、母親に遮られた。


「ごめん、カヌー下りの説明が始まるんだって。じゃぁ、またね!」と言って電話が切れた。

「ツー、ツー、ツー、」と音が聞こえ、嵐が過ぎ去った様な静けさが部屋を覆った。秒針の音だけがカシャッ、カシャッ、カシャッ、カシャッ…と響き渡った。

(いつもそうだ…。私の話しなんてろくに聞いてくれた試しがない…)


 結局、私は言葉を発する間も無く一方的に電話が切れた。

(なんて話そうか)なんて考えた時間も無駄の様に思えて、なんだか空虚な気持ちになった。一人だという事をしみじみ感じた瞬間だった。


 しかし、随分と豪遊してるみたいだけど、いったいなんで私に感謝なんだろうか…。何か勘違いなのかな?…。と疑問が残ったけれど、関わりたくないので、スルーする事にした。

 まぁ、実家に帰らなくても良いってことで、結果的にはよかった。なんか懸賞でも当たったんだろうと、自分で勝手に納得してこの事は解決した。


 急に何にもする事が無くなって、時間を持て余してしまった。

 身支度を整えた事もあって、せっかくだから出かける事にした。

(映画でもみようかな)(混んでるかなぁ)

 年の瀬も近いのに一人で映画とは、ますます孤独を感じそうなものだが、丁度観たい映画もあったので、決心していく事にした。

 ネットを見たら、ちょっと急げば間に合う時間に空席があった。

 後ろから4列目の通路側が空いてる。

 そこを予約して、バッグとコートをつかんでアパートを出た。


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