04.常識とは


 常識の範囲内、という言葉が嫌いだ。こんなにも彼女のことを愛しているのに、いつだって『常識』という言葉が邪魔をする。

 例えば、俺はいつでもどこでも彼女とくっついていたいし、人前でキスするのも厭わないし、愛してる、っていうのは少し恥ずかしいけれど、好きという気持ちを言葉にしたい。

「ニホンジン、シャイデスネ」

 電話越し。つい最近、近くに引っ越してきたレイが言う。レイの生まれ育った国では、そういうのは当たり前なのだとか。じゃあ、常識というのは、一体なんなのか。

「人前でキスするのは常識?」

「ンー、ジョウシキ、チガウ」

「あ、それは違うのか」

「スキナヒト、イヤナコト、シナイ。コレ、ジョウシキ」

 確かに、レイの言う通り。彼女が嫌がることは絶対にしたくない。すっかり大切なことを忘れてしまうところだった。レイに感謝の気持ちを告げ、電話を切る。

 すると、タイミング良く、彼女が俺を呼ぶ声が聞こえた。

「なに?」

「あ、ねぇ、このプリン食べて良い?」

「えっ、」

 それは職場の女の子から貰った高級プリンで、今日の夕食後に食べようと思って大切に取っておいたやつ。けれども、脳内で再生されるのは少し前のレイの言葉。イヤナコト、シナイ。コレ、ジョウシキ。

 そもそも、女の子から貰った、と教えた時から彼女はあまり良い顔をしていなかったのだ。それをここでダメだと言ったら、彼女はどう思うだろう。女の子から貰ったから、なんて勘違いされれば一巻の終わり。

 それに、彼女がプリンを食べたいと言っているのに、断るなんて、そんな。まさに嫌がること、に違いない。

「……常識って譲歩できる?」

「は?」


 半分こした。




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お詫びは高級スイーツで ぺらー。 @zzzpuri

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